【ソウル=桜井紀雄】「ミサイルは小型ばかりだ」。トランプ米大統領は、北朝鮮による前回7月25日の新型短距離弾道ミサイル発射をこう過小評価した。金正恩朝鮮労働党委員長は“お墨付き”を得たとばかりに、韓国を威嚇するミサイル発射を短期間に繰り返しており、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、外交・安全保障政策で一層追い込まれた形だ。
25日のミサイルの軌道を分析した韓国軍関係者は、息をのんだ。下降段階で突然急上昇する「プルアップ機動」という特異な動きが確認されたためだ。
このミサイルの原型とされるロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が迎撃をかいくぐる動きの一つだ。イスカンデルの射程は500キロ超とされるが、北朝鮮のミサイルは約600キロ飛行。飛行中にエンジンが再点火されたと推測され、北朝鮮が高度な技術を獲得したことを意味した。
金氏は「威力を確信でき、満足に思う」と述べ、韓国の“好戦勢力”に対し「不安と苦悩を十分に植え付けただろう」と強調した。金氏が対米非核化交渉にシフトして以来、くすぶっているとされる軍部の不満をそらし、米国を刺激せずに韓国を圧迫し続ける手段を手にしたことになる。
金氏が最近視察した新型潜水艦について、韓国国防省は31日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を3基程度搭載できるとの分析を国会に報告した。安保脅威は日々高まるが、韓国大統領府は31日に緊急招集した国家安全保障会議(NSC)で「朝鮮半島の平和構築のための努力に否定的影響を及ぼす恐れがある」と懸念を表明するのにとどまった。南北対話をつなぎ留めようとの配慮がにじむ。
韓国軍は25日の発射の飛距離を2度訂正した。低空飛行や急上昇など特異な動きをしたミサイルの追跡に限界があり、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に基づき、日本側の情報も得て最終的に軌道や飛距離を導き出したとされる。日韓対立でGSOMIA廃棄を主張する声が政界などで上がる中、相次ぐミサイル発射は日韓の安保協力議論にも影響を与えそうだ。