中国は昨日、元安に歯止めをかける行動に出た。これによって暴落に転じていた世界の株式市場が下げ止まった。具体的には中国人民銀行が①対ドル基準値を1ドル=6.9683元と市場予想よりも元高水準に設定したこと②香港のオフショア市場で300億元(42億5000万ドル)相当の人民元建て債券の発行計画を発表したことの2点。このほか内外の民間企業を集めた説明会も実施。長期的に人民元が下がり続けることはないとの見通しを示したようだ。人民元の7ドル割れが実現したあと米国は即座に中国を「為替操作国」に指定したことも影響したのだろう。中国はとりあえず元安誘導を排除する姿勢を示した。

人民元の7ドル割れは世界経済に強烈なインパクトを残したことは間違いない。米国の対中批判が巻き起こるリスクはあるものの、中国がその気になれば世界の金融市場が混乱する事実をトランプ大統領に突きつけたことになる。トランプ氏の生命線は株価である。株価暴落を誘導する手段を中国は握っている。加えてサマーズ元財務長官が「為替操作国」指定を批判している。トランプ大統領は衆目の支持を得ているわけではない。政権基盤の危うさを同時に示すことができた。これは米国ならびに金融市場関係者にとっては脅威だろう。中国が取りうる手段はこれだけでない。とっておきの一手がある。保有米国債の売却だ。中国は現在世界最大の米国債保有国である。

ブルーンバーグによると米エール大学の上級講師、スティーブン・ローチ氏は次のように指摘している。「中国は『豊富な弾薬』を持ち、トランプ米大統領よりも長い時間枠で動いている」と。弾薬の一つは米国債。中国は現在1兆1000億ドル(約117兆円)に上る米国債を保有している。これを一気に売却すれば世界の金融市場は大混乱をきたすだろう。そんな無謀なことはできるわけないが、中国をその気にさせたら何が起こるかわからない。多くの市場関係者は元の安値誘導の先にそんな中国の思惑を感じ取ったことだろう。米中の経済摩擦に勝者はない。米国も中国も、そして世界中が痛手を負う。そんなことはわかっていても双方で傷つけ合うしかない。大統領選挙に向けて一向に支持率の上がらないトランプ氏、「長い時間枠」のようにみえて短期決戦に挑む習氏、両首脳ともおそらく内心は焦っているだろう。