政府が安全保障上の輸出管理で優遇措置を適用する「ホワイト国」から韓国を除外し、韓国側は反発を強めている。しかし、いわゆる徴用工訴訟をめぐり、韓国政府は国際法違反にあたる韓国最高裁判決に何ら有効な対応策を示していない。韓国側は日本政府に責任転嫁するばかりだが、すべては1965年の日韓請求権協定とその交渉過程で決着している。文在寅(ムン・ジェイン)大統領はその「過去」には決して触れない。一体、交渉で何が協議されたのか-。
政府が「ホワイト国」除外の政令改正を閣議決定した8月2日、韓国政府も緊急閣僚会議を開き、文氏が語気を強めて日本を批判した。
「加害者の日本が傷をほじくり返せば、国際社会の良識が決して容認しない」
「われわれは二度と日本に負けない」
過去に対する憤りもない交ぜになっているようだが、輸出管理はまったく歴史とは関係がない。菅義偉(すが・よしひで)官房長官も「安全保障の観点から必要な運用の見直し」と繰り返し説明している。
だが、文氏はこうも述べた。
「どのような理由で言い訳をしようとも、日本政府の今回の措置は、強制徴用をめぐる大法院(最高裁)判決に対する明白な貿易報復だ」
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輸出管理の見直しを徴用工訴訟と結びつけるのであれば、そもそも日韓国交正常化の際に、元徴用工への補償問題がどのように扱われたのかを振り返る必要がある。
日韓の正常化交渉は1951年に始まった。朝鮮半島統治を規定した1910年の「日韓併合条約」の有効性が大きな争点となり、交渉は断続的に進んだ。
1952年、交渉の初期の段階で韓国が日本側に示したのが「対日請求要綱」だ。日本政府の朝鮮総督府に対する債務の弁済や韓国に本社や事務所があった法人の財産返還など8項目で構成され、第5項では元徴用工に関し、次のように明記している。
「被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する」
実際、交渉の中でも韓国側の政府代表は元徴用工への補償を求めた。1961年5月10日の交渉では、第5項の要求を「一般労務者の他に軍人軍属、全部を含めて、生存している者、負傷、死亡した者に対してそれぞれ補償してもらいたいという意味だ」と説明。「強制的に動員し、精神的、肉体的苦痛を与えたことに対し、相当の補償を要求するのは当然だと思う」と述べている。
これに対し、日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねると、韓国側は「国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」と答えた。
日本側は重ねて「国民の感情をなだめるためには、個人ベースで支払うのがよいと思う」と再考を促したが、韓国側は「われわれは、われわれの国内問題として措置する考えであり、人数や金額の問題があるが、どうかして、その支払いはわれわれの政府の手でする」と譲らなかった。
こうした交渉の結果、締結されたのが日韓請求権協定だ。日本が韓国に無償で3億ドル、有償で2億ドルを供与し、両国民の財産や権利に関する問題は「完全かつ最終的に解決された」ことが明記された。韓国側の要望通り、元徴用工への補償金は、韓国政府にまとめて支払われることになった。
協定に付属する合意議事録では、協定で解決された請求権問題には、韓国側が提示した対日請求要綱の8項目がすべて含まれ、この要綱に関するいかなる主張も以後はできないことが確認されている。
こうした事実を踏まえると、「日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の請求権は、日韓請求権協定の適用対象に含まれない」と判示し、日本企業に賠償を命じた昨年10月以降の韓国最高裁判決がいかに不当なものであるかがわかる。
国家間で結んだ請求権協定を無視するような判決が出された以上、韓国政府は日本側に被害が及ばないように適切な措置をとらなければならない。日本政府はこのことを繰り返し主張しているが、文氏は不都合な過去には目をつぶりたいようだ。(政治部 力武崇樹)