【ワシントン時事】米歴代政権が堅持してきた為替政策の原則、「強いドルは国益」が揺らいでいる。トランプ大統領は輸出に不利になるとしてドル高を繰り返しけん制。中国の人民元安誘導に対抗してドル安志向を強めるとの観測もくすぶる。基軸通貨ドルの不安定化は急激な円高など市場の混乱を招き、世界経済の打撃になりかねない。
「強いドルは国益」の言い回しは、1990年代後半にクリントン政権当時のルービン財務長官が使い始めたとされる。米通貨当局のドル安定重視を明示する決まり文句として、以降の政権に引き継がれた。
トランプ政権のムニューシン財務長官も「強いドルを信じている」と話す。だがトランプ氏は最近ツイッターで、「米大統領として私が非常に強いドルを喜んでいると思うかもしれないが、そうではない!」と明言。使い慣らされた文言に異を唱えたことで、為替政策の転換を意図しているとの臆測が広がった。
実際トランプ政権は7月、ドル相場押し下げ介入の可能性を議論した。今のところトランプ氏は「ドル安誘導の必要はない」と語っているが、為替介入をめぐる警戒感が市場に漂う。米国が介入すれば、東日本大震災後の円高阻止で日銀などと協調して行った2011年以来だ。
一方で、米国が単独でドル売り介入を行えばドル相場が不安定化し、「米国から資産逃避が加速する」(エコノミスト)恐れがある。トランプ政権は人民元相場を低く抑えているとして、中国を25年ぶりに「為替操作国」に認定した手前もあり、介入は現実的ではなさそうだ。
そこでトランプ氏は「連邦準備制度理事会(FRB)が利下げすれば自動的にドルは少し安くなる」と、FRBに迫る。ただFRBへの執拗(しつよう)な圧力は金融政策の独立性を傷つけ、結果的にドルへの信認を損ないかねない。