【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が南北統一の青写真を示し、経済協力を訴えた翌日に、北朝鮮は演説の徹底非難と飛翔(ひしょう)体発射で応えた。脅せば脅すほど、文政権は譲歩すると見下しているかのようだ。文氏が融和姿勢を貫く中、北朝鮮は急速にミサイルの世代交代を進めているとみられ、韓国への脅威は目に見えて高まっている。
「2032年にはソウル・平壌共同五輪を成功させ、45年の光復(解放)100年までには平和と統一で一つになった国『ワンコリア』として世界に位置付けられるよう土台を築いていく」。文氏は15日の演説でこう宣言した。
朝鮮半島の非核化が進み、経済協力が加速すれば「おのずと統一は目の前の現実になる」とも語った。
それに対し、北朝鮮は窓口機関の談話で、韓国は実施中の米韓合同軍事演習が終われば「おのずと対話局面が訪れると妄想し、朝米対話から漁夫の利を得ようとうかがっているが、未練は捨てた方がよい」と冷ややかに突き放した。
北朝鮮が16日に飛翔体を発射した東部の通川(トンチョン)は軍事境界線からわずか約50キロの場所で、韓国を脅迫する意図が鮮明だ。北朝鮮がこれまで発射を繰り返してきた新型短距離弾道ミサイル「KN23」に加え、10日に試射したのは、米軍の戦術地対地ミサイル「ATACMS」と類似しているとの見方もある。落下する際、数百個の子弾がまかれる破壊力のあるミサイルだ。
韓国では、新型多連装ロケット砲を合わせ、「新型兵器3点セット」と呼び、警戒を強めている。いずれも燃料注入の時間が必要ない固体燃料を用いて奇襲的に発射が可能だ。液体燃料式のスカッド・ミサイルなどからの世代交代を図っていると分析されている。
文氏は演説で「われわれはより強力な防衛力を持つ」と強調した。だが、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は13日、新兵器開発に携わった軍科学者103人を一斉に1階級昇進させた。新型ミサイルの開発を成功裏に終えたと誇示した形だ。韓国を狙う新兵器の実戦配備が「目の前の現実」に近づいていることを示している。