[ロンドン/ニューヨーク 14日 ロイター] – アジアやニューヨークの市場関係者によると、米中通商紛争の激化と人民元安の進行により、中国の投資家の間で暗号資産(仮想通貨)を求める動きが強まっている。中国人に人気の仮想通貨取引所で売買が増え、店頭市場を仲立ちするブローカーが取引の多さを認めているという。 

仮想通貨の取引量を把握するのは非常に難しく、これは中国に限ったことではない。ほとんどの仮想通貨を支えるブロックチェーン技術では、通貨のやり取りに使われるデジタルウォレットの記録をたどることが可能だが、送り手の居場所は特定できない。また中国は政府が2017年に仮想通貨取引所の運営を禁じたため、国内に仮想通貨に関するデータがほとんど存在しない。 

しかしマルタを拠点とし、中国人の間でよく知られた仮想通貨取引所であるOKExの運営責任者、アンディー・チャン氏によると、米中通商紛争による中国の景気減速や人民元安を受けて、大口投資家の一角が人民元を仮想通貨に置き換えている。 

人民元が急落した5日に代表的仮想通貨のビットコインは7%上昇。仮想通貨市場の時価総額は9%増加し、中国の投資家が人民元を売り、仮想通貨を買っているとの憶測が広がった。 

チャン氏は「人民元だけでなく、中国経済全体が懸念されている。米中通商紛争のせいでインターネット関連企業の多くは採用を凍結し、事実上の人員削減を進めている」と述べた。 

中国は厳しい資本統制を維持しており、資金を海外に持ち出したい国民にとって選択肢はほとんどない。そのため仮想通貨が国外に資産を移す魅力的な手段になっている。 

実際、今年は仮想通貨市場のボラティリティが低いタイミングで人民元安とビットコイン高に正の相関が生じている。 

仮想通貨取引所イートロのアナリスト、マティ・グリーンスパン氏によると、イートロでは1ドル=7元を超えるドル高局面で仮想通貨とコモディティーの取引が大幅に増加した一方、株式の取引は緩やかに減少し、為替の取引は横ばいだった。 

グリーンスパン氏は「中国人民銀行(中央銀行)が人民元について決断を下した日には、暗号資産の上昇が目立った。イートロでは通貨資産全体で取引量が1週間前の2倍になった」と語る。ただ、仮想通貨を買ったのが中国人投資家かどうかは特定できないという。 

中国の投資家は国内の規制にもかかわらず、引き続き仮想通貨を活発に取引している。取引のほとんどは店頭市場や、対話アプリ「ウィーチャット」などで行われているようだ。 

デジタルウォレット会社ブロックチェーンの調査責任者、ガリック・ヒルマン氏は「取引が多いということが分かるだけだ。規制面の理由からこの点は把握できる」と述べた。 

香港の仮想通貨ファンド、ケネティックのマネジングパートナー、ジェアン・チュー氏によると、地元の店頭市場では米中通商紛争の影響が広がったこの3カ月間に中国の取引量が2倍以上に増えた。 

市場関係者によると、米ドルに連動する仮想通貨「テザー」と人民元・香港ドルの売買でサヤを抜き、利益を上げるチャンスがあることも、個人投資家が仮想通貨を取引する要因になっている。 

香港の仮想資産投資会社オリチャル・パートナーズのアンソニー・ウォン氏は「国境を越えて資本を動かそうとする人々の多くが、その手段としてテザーを使おうとしている」と述べた。 

(Tom Wilson記者、Gertrude Chavez-Dreyfuss記者)