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フッ化水素の韓国向け輸出量が激減し、平均価格が高騰した

 半導体製造などに使う化学物質「フッ化水素」の7月の韓国への輸出量が、前月から8割も減った。7月4日に発動された半導体関連3品目の対韓輸出規制強化の影響とみられる。半導体製造は韓国の基幹産業だけに、調達面での「日本離れ」を懸念する声もある。

 財務省が29日に発表した7月の貿易統計(確報)で明らかになった。7月のフッ化水素の対韓輸出量は479トンで、前月より83・7%減だった。前年同月比でも84・8%減った。過去1年、毎月3千トン前後で推移しており、かなりの低水準だ。

 一方、輸出額は前月比32・6%減(前年同月比35・6%減)の4億97万円。輸出額を輸出量で割った平均価格は前月比で4倍超に跳ね上がった。品薄への懸念から、取引価格が高騰した可能性がある。

 フッ化水素など3品目の韓国向け輸出規制の強化で、国内企業の輸出手続きは煩雑になり、原則、輸出契約1件ごとに経済産業省の許可が必要になった。許可の取得には最大90日程度かかる。

 規制強化された含有濃度30%超の製品が輸出量にどの程度含まれるかは分からないが、フッ化水素を製造するステラケミファ(大阪市)の担当者は「7月4日以降の申請分の許可はまだ1件も出ておらず、必然的に出荷量は落ちている」。森田化学工業(同)も同様の状況だという。韓国に輸出されるフッ化水素は、この2社のものが大半を占める。

 経産省は、フッ化水素に関する輸出許可の状況を明らかにしていない。

 同じく規制強化されたほかの2品は貿易統計上、他の品目と同じ分類にまとめられており、輸出量や輸出額が特定できない。

 韓国貿易協会によると、韓国のフッ化水素の日本への依存度は4割超。韓国政府は国費を投じて、こうした材料の国産化を進める構え。日本総研の向山英彦上席主任研究員は「中長期的に韓国の産業の『日本離れ』が進むのではないか」と話す。

再開に向けて日本も動くとのメッセージ

 武器転用の恐れのある品目は、国際的な枠組みで各国に厳格な管理が求められている。日本政府は今回の対韓輸出規制の強化の根拠として、国内企業に輸出手続きで「不適切な事案」があったことに加え、韓国の国内貿易管理体制に不備があると指摘。韓国は撤回を求めているが、規制強化は「国際社会の一員として当然の義務」(世耕弘成経済産業相)だと主張する。

 一方、韓国に対して事態打開に向けた「糸口」をほのめかす動きも出てきた。

 経産省がこだわるのは、一連の措置についての7月12日の「説明会」後の韓国の対応だ。双方で取り決めた範囲を逸脱する内容を一方的に公表したとして、日本は韓国に抗議。世耕氏は8月23日の会見で「会合の趣旨を勝手に変えられるようでは、話し合いなんて持てない。説明会について韓国から訂正するのがスタートだ」と強調した。

 裏を返せば、韓国がこの件で歩み寄れば、3年以上開かれていない政策対話の再開に向けて日本も動くとのメッセージでもある。もともと経産省の輸出管理部局では、「西側の国に取り込むため」(経産省幹部)に、2004年に「期待値」を込めて韓国を輸出優遇国に指定したという思いがある。別の経産省幹部は「韓国が(貿易管理体制を)改善する姿勢さえ示せば、日本側は柔軟に受け入れる用意はある」と話す。

 ただ、韓国政府は一連の日本の措置が、日本企業に賠償を命じた韓国人元徴用工訴訟をめぐる経済報復措置だとの主張を崩さず、歩み寄る姿勢はみえない。(伊藤弘毅)