社会保障制度改革をめぐり、自民党の厚生労働族が虎視眈々(たんたん)と財務省からの主導権奪還を狙っている。超高齢社会を背景に社会保障費が膨張する中、財政制度等審議会(財政審、財務相の諮問機関)は抑制に向けた具体策を示しており、厚労族は財政面からの議論が先行していることを懸念している。(坂井広志)
政府は社会保障改革に向け「全世代型社会保障の構築に向けた新たな会議」を設置する方向で検討している。自民党の社会保障制度調査会(会長・鴨下一郎元環境相)はかねて新会議の設置を主張してきた。超高齢社会への対応が急がれるためだが、もう一つ別の狙いがある。
同調査会は新会議設置を政府に申し入れる方針で、その原案には「財政のつじつま合わせに終始すると国民の不安の解消にはつながらず、かえって不安を増す」と財務省を牽制する文言が盛り込まれている。社会保障制度改革の主導権を新会議を通じて財務省から取り戻す-。これこそが厚労族が描くシナリオにほかならない。
ある厚労族は「ここ数年、財務省にやられっぱなしだ。財務省の攻勢にあがらがう構図はそろそろやめるべきだ。新会議を作って社会保障政策のあるべき姿を示さなければ、国民の理解は得られない」と語る。別の族議員によると、新会議設置には「財政審のいいなりにならないように、反論する有識者らを集めておく」狙いもあるという。
社会保障費は国の予算の約3分の1を占め、厚労省の問題にとどまらない。このため、首相を議長とする経済財政諮問会議で社会保障制度全般について議論し、政府が骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)を決定している。この骨太方針に影響を与えているのが、財政審が財務相に提出する建議(意見書)というわけだ。
今年は6月19日に麻生太郎財務相に建議を提出し、同月21日に骨太方針を閣議決定した。
今後予定される改革の検討課題には、75歳以上の後期高齢者の病院での窓口負担の原則2割への引き上げや、介護保険制度の利用者負担の原則2割への引き上げなどがあるが、いずれも建議で示した見直し策だ。
一方、厚労省は8月27日、年金の財政検証を公表した。検証結果を受け、政府は年金についても制度改正の議論を本格化させる。
建議は年金の伸びを物価や賃金の伸びより低くする給付抑制策「マクロ経済スライド」について「十分に機能を発揮せず…」としており、在り方の検討を続けることを明記した。十分に機能させると受給対象者への給付は一層抑制される。
高齢者らの懐が痛む政策は、自民党への批判となって跳ね返ってくるのは間違いない。政府は団塊の世代(昭和22~24年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になり始める令和4年までに制度の基盤を強化したい考えだが、衆院議員の任期満了は3年10月。4年までに確実に衆院解散、総選挙が行われる。厚労族を中心に自民党サイドには焦りが募る。