【北京時事】建国から70年、豊富な労働力人口に伴う「人口ボーナス」を生かして世界第2の経済大国に上り詰めた中国。しかし、人口14億人のうち既に2億5000万人が60歳以上で、「一人っ子政策」をやめても出生数の減少は止まらない。建国100年の節目となる2050年前後には人口の3分の1以上、5億人近くを60歳以上が占めるとの予測もある。習近平国家主席が今世紀半ばを目標とした米国に匹敵する「強国」の実現には、「老い」との戦いが待ち受けている。
◇人手不足で埋まらない
首都・北京市の南部に昨年3月に開業した民間老人ホーム「嘉祥敬老院」には、68~98歳の100人余りが暮らす。食費を含む月額料金は5人部屋の5400元(約8万2000円)から、認知症患者など要介護の1人部屋3万7900元までと幅があるが、北京市民の養老金(年金)の平均受給額約6000元をにらんだぎりぎりの価格設定だ。
ただ、認可された390床が埋まる見通しは立たない。「必要な数の介護職員を確保できない」(倪朝輝・院長補佐)ためだ。現在60人余りの職員の多くは40、50代。孫ができて面倒を見るなどの理由で辞める職員も多い。
倪氏は「介護職員の社会的地位を向上させ、若者に来てもらいたい」と希望を語る一方、現実的には「定年退職したばかりの60~65歳の活用を検討している」と明かした。
◇「2人っ子」でも増えず
国家統計局のデータによると、建国時の1949年の人口は約5億4000万人。大量の餓死者を出した「大躍進」政策により減少に転じた60年と61年を除き増加を続け、70年間で約2.6倍に増えた。平均寿命も建国当初の35歳から2018年には77歳に伸びた。高齢者は増え続け、00年には65歳以上が人口の7%に達し、高齢化社会の仲間入りし、18年には12%に上昇した。定年が男性60歳、女性50歳(一部幹部は55歳)の中国で、ほとんどが退職者の60歳以上なら18%に達する。
一方、年間出生数はピークだった63年の3000万人弱から、18年には1523万人とほぼ半減。人口抑制のため80年に正式導入した「一人っ子政策」は13年に一部緩和され、16年にはすべての夫婦に2人の子供を認めた。しかし、出生数は16年こそ前年から増えたものの、17年は63万人減、18年は200万人減と57年ぶりの低水準に落ち込んだ。「将来の教育費を考えると、子供は1人で十分」(北京市の30代女性)といった子育て世代の意識変化を見誤り、18年に2000万人以上に回復するとの国の予測は見事に外れた。
◇年金、16年後に底突く?
日本を上回るスピードで進む少子高齢化は、年金財政をむしばむ。「年金積立金は27年の約7兆元をピークに急減し、35年に底を突く」-。国務院(内閣)直属のシンクタンク、中国社会科学院が4月に公表した推計は国内で波紋を呼んだ。推計をまとめた同院世界社会保障研究センターの鄭秉文主任は「定年の延長や、保険料を多く納めれば支給額も増えるインセンティブ制度の導入が必要だ」と訴える。
しかし、年金を所管する人的資源社会保障省は、財政支援や国有企業株式の年金基金への移転などにより「長期にわたって制度を維持できる」と主張、抜本的な制度改革に動く気配はない。
かつて「一人っ子政策」の旗振り役を務めた国家衛生健康委員会(旧国家衛生・計画出産委員会)幹部は昨年夏の講演で、60歳以上の高齢者は50年に4億8700万人(人口の35%)に達し、国内総生産(GDP)の26%を介護や医療に充てる必要があるとの予測を披露。その上で「世界で最も高齢者が多く、高齢化の速度も速いわが国は、そのリスクを軽視すべきではない」と警告した。