欧州連合(EU)離脱を最大の争点とする12日の英総選挙。最大野党・労働党の長年の牙城イングランド北西部ワーキントンでは、EU離脱を望む有権者の不満を取り込む形で、議席奪還を狙う与党・保守党が勢いづいている。「変化の瀬戸際にある労働党の町」(英紙ガーディアン)ワーキントンを訪れ、情勢を探った。
◇「ボリスはいい首相」
ロンドンから列車で北へ4時間半。アイリッシュ海に面したワーキントンは人口約2万5000人。かつて炭鉱業で栄えたが、現在は経済の衰退が目立つ典型的な地方都市だ。住民の多くは近隣のセラフィールド原子力施設の労働者。1970年代の一時期を除き、過去約100年ほぼ一貫して下院に労働党議員を送り込んできた同党の牙城だが、2016年のEU離脱国民投票では離脱賛成が6割を占めた「離脱派の拠点」でもある。
特に知られた町ではなかったが、ある右派系シンクタンクが、こうした労働党安全区に多いとされる「離脱未達成に不満を抱く中高年白人男性」を一般化して「ワーキントンマン」と呼び、彼らの票が勝敗を分ける鍵を握ると断じたことから一気に知名度が上がった。国内外からメディアが殺到し、今回の選挙の象徴的存在となっている。
中心街から少し離れた所にある地元の保守党支持団体「保守クラブ」に足を運ぶと、数人の男性が集まって談笑していた。日本人記者だと告げると「また外国メディアが来たよ!」と一斉に笑い声。会長のロニー・ベルさん(64)は「(保守党候補の)運動はうまくいっている。勝つ自信があるよ」。理由を問うと、「住民は離脱を望んだのに(地元選出の)労働党議員は残留を選び、支持をなくした。国民投票から3年もたったのに離脱しないことに不満を抱える労働党支持者が保守党に乗り換えている」と指摘。「ボリス(ジョンソン首相)はいい首相だ。彼なら離脱を実行してくれる」と力を込めた。
◇「決められない」野党
ベルさんの自信を裏付けるかのように、11月の世論調査によると、ワーキントンでは保守党が前職の労働党候補を4000票差で破って勝利するとの結果が出た。態度未決定者が多く予断を許さないが、安全区を失いかねない労働党は焦りを募らせている。地元の同党事務所に取材を申し込んだところ、「多忙」で面会拒否。候補者の代理人は「コメントすることは何もない。もう電話しないでくれ」といら立った様子で話した。
中心街のカフェでコーヒーを飲んでいたウォルト・ローガンさん(79)は離脱派の「ワーキントンマン」。過去の選挙ではずっと労働党を支持してきたが、今回は保守党に入れるという。「もう労働党には飽き飽きだ。離脱問題で何も決められない。その点、ボリスはやると言ったらやる。(離脱するかしないか)どちらかにするべきだ」と一気にまくしたてた。妻キャサリンさん(77)も労働党支持だったが、「コービン(労働党首)が好きではない。離脱問題が長引いていて、はっきり決めてほしい」。今回初めて保守党に一票を投じるつもりだ。
一方、元バス運転手のバリー・ペートルさん(69)はこれまで同様、労働党に入れる予定。「ここはずっと労働党が強かったが、(保守党が追い上げていて)嫌な感じだ」と不安げ。国民投票では「EUに金を払うのが嫌」で離脱に賛成したが、選挙では離脱より医療問題の方が重要だと主張した。