[東京 5日 ロイター] – 政府が閣議決定した経済対策は19年度補正予算の規模が4.3兆円となり、昨年度補正予算3.9兆円をやや上回る程度の規模となった。調査機関からは景気後退は回避できるとはいえ、成長率押し上げ効果は政府試算の1.4%ポイントより小さく、1%ポイントには届かないとの指摘が相次いでいる。短期的な経済対策に中期課題である成長投資まで盛り込む内容にも、違和感を指摘する声が上がっている。
<経済効果は1ポイント届かず>
今回の経済対策は、災害からの復旧・復興に加えて、海外経済減速や増税の影響に伴う経済下ぶれリスクへの予防措置、五輪後も見据えた需要対策を打つことで、来年度の景気悪化を防ごうという狙いがある。
規模を大きく見せることで安心感を狙おうと、事業規模は26兆円程度となったが、15カ月予算分であること、民間資金の活用も含んでいること、財政投融資による5G投資なども含まれていること、学校のパソコン支給など複数年度分にまたがる内容になっていることなどで、数字が膨らんだかたちだ。
実際の政府の財政支出も13兆円程度、財政投融資などを除いた政府の直接支出は9.4兆円。うち2019年度補正予算の計上額は4.3兆円というのが実態だ。
第一生命経済研究所・副主任エコノミストの星野卓也氏は「補正予算額としては、18年度の3.9兆円とさして変わらない。GDPを大きく押し上げるような効果を期待すべきではない」と指摘。
またUBSの足立正道エコノミストも、人手不足などから公共工事の消化が遅れることを踏まえれば、実際の成長率押し上げは1ポイント未満にとどまると予測している。
<4兆円台は例年並みの補正規模>
当初自民党幹部からは真水で10兆円との発言が飛び出し、大規模な財政出動に違和感を示す声も上がっていたが、BNPパリバ証券ではリポートで「経済対策で真水の規模が10兆円を超えたのは98年の金融危機やリーマンショック、東日本大震災など、大規模危機に対応するもの。現在は、それなりに底堅い。このため、政府内でも多少なりとも自制が働いたとみられる」と論評している。
むしろ4兆円台という補正予算の規模は、例年通りの数字で必然との指摘もある。
足立氏は「安倍政権下のこの過去6年間の補正予算規模はおおむね3-4兆円程度で推移してきた。すなわち、翌年になればまた同程度の補正予算を組まなければその分の金額が剝落してしまうため、毎年最低でも同程度の歳出が必要となる」と解説する。
政府の経済財政諮問会議でも民間議員から「前年度は補正で4兆円、これはGDP比で0.7%に対応する。これが今回、なくなってしまうと大きな影響が出てしまう」との発言があった。最低でも必要な4兆円程度の財政支出に抑制されたという見方もできる。
<成長投資、なぜ補正>
今回の経済対策については、その中身に疑問を投げかける向きもある。
短期的には台風被害からの復旧や防災減災、国土強靭化の強化に向けた公共工事などに財政支出5.8兆円が計上されており、それなりの経済効果が見込めそうだ。しかし、経済活力の維持・向上に4.3兆円の財政支出がさかれており、ポスト5G情報通信システム基盤強化対策やSociety5.0時代を担う人材投資なども盛り込まれた。
大和総研シニアエコノミストの小林俊介氏は「本来は本予算に乗るべきこうした成長投資がなぜ補正予算という短期的な計画に盛り込まれいるのか、たてつけがおかしい」と指摘。ポスト5G支援投資といっても、急いで投資するには中国ファーウェイなどの力が必要となり、具体的なイメージがわかないという。
経済対策をめぐる政府内の議論でも、教育のICT化や、大学への研究活動資金支援、中小企業の生産性向上や就職氷河期世代の支援などは「時間をかけて対応していかなければいけないので、単発でやるということではなかなか難しいだろう」との諮問会議民間議員からの指摘もあり、基金での対応も俎上に上がっていた。
小林氏は「急ごしらえで規模ありきとの印象がぬぐえない内容」として、中長期の成長率強化に取り組む姿勢としてはやや疑問が残るとみている。