【ロンドン時事】世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥ることが確実になった。貿易紛争処理の「最終審」に当たる上級委員会をめぐり、10日に任期切れを迎える委員2人の後任の選任を米国が拒否しているためだ。自由貿易の牙城となるはずのWTOの機能不全は、世界の貿易体制に影を落としそうだ。
トランプ米大統領はこれまで「WTOは壊れている!」「WTOはわれわれに不公平だ」とツイッターに投稿するなど、不満を隠さなかった。WTOへの不信感から中国に「貿易戦争」を仕掛けた経緯もある。
上級委は一審に相当する紛争処理小委員会(パネル)から上訴された案件の処理を担う。定員は7人(任期4年)で、このうち3人で各案件を審議する。しかし、米国の反対でこれまでに欠員が生じ、委員が必要最低限の3人となっていた上、10日には新たに2人の任期が切れる。11日から上級委の機能は事実上停止する。
WTOは1995年の発足以来最大の危機に直面している。来年6月にカザフスタンで開かれる閣僚会議までに改革をどれだけ進められるかが今後の焦点となる。ただ、加盟164カ国・地域の全会一致が原則のため、意見集約は困難を極めそうだ。
一方、米国はWTOの2020年予算案を承認しない可能性も示唆していたが、事前の協議で予算案に合意した。9~11日の一般理事会で正式承認される。予算案が承認されなければ、来年1月からWTOの業務が停止する恐れがあった。