ことしの春闘を前にNHKが主要な企業100社を対象にアンケートを行った結果、基本給を一律に引き上げる「ベースアップ」を検討すると回答した企業は6社でした。去年の調査の半分にとどまっていて、賃金の引き上げをめぐる労使交渉は厳しいものとなりそうです。
NHKは、今月9日から23日にかけて製造業や小売など国内の主要な企業100社を対象に、ことしの春闘などに関するアンケートを行い、すべての会社から回答を得ました。
それによりますと、ことしの春闘での賃金に対する考え方を複数回答で尋ねたところ、
▽従業員の基本給を一律で引き上げる形でのベアと答えた企業が6社、
▽子育て世代など特定の層に限って基本給を引き上げる形のベアが2社、
▽賞与や一時金の引き上げが1社でした。
いずれも去年の調査と比べて減少していて、このうち基本給を一律で引き上げる形でのベアは、去年の半分にとどまりました。
背景にあるのは景気の先行きに対する不透明感です。
東京オリンピック・パラリンピックの後の国内景気の見通しを尋ねたところ、
▽「拡大」と「緩やかに拡大」が合わせて30社だった一方、
▽「横ばい」が43社、
▽「緩やかに悪化」が18社でした。
景気が「横ばい」、もしくは「緩やかに悪化」と回答した企業に、理由を複数回答で尋ねたところ、
「個人消費の伸び悩み」が最も多く、
「オリンピックの経済効果がなくなること」や
「アメリカと中国の貿易摩擦の長期化」を懸念する回答も目立ちました。
さらに足元では、新型コロナウイルスの感染拡大で、経済に悪影響が出る懸念も強まっており、景気の先行きに不透明感が増す中、賃上げに慎重になっている企業の姿勢がうかがえます。
「年功型賃金」見直し必要 計45社が回答
NHKが主要企業100社に行ったアンケートでは、ことしの春闘で経団連が見直しを打ち出した新卒一括採用や年功型賃金といった日本型雇用の考え方も聞きました。
「日本型雇用システム」と呼ばれる制度のうち、年齢や勤続年数に応じて賃金もあがる「年功型賃金」について尋ねたところ、
▽「抜本的に見直す必要がある」が9社、
▽「部分的に見直す必要がある」が36社で、
合わせて45社が見直しが必要だと答えました。
▽「見直す必要はない」は1社でした。
見直しが必要と答えた企業に、どう見直すか複数回答で尋ねたところ、
▽「役割や仕事の内容を反映した賃金体系に変更する」が36社と最も多く、
▽次いで「若い年齢層の引き上げ」が11社などとなっています。
一方、企業が社員を定年まで雇用する「終身雇用」については、
▽「見直すべき」が27社、
▽「維持すべき」が19社でした。
また、卒業予定の学生を特定の時期にまとめて採用する「新卒一括採用」については、
▽「今後も続ける」が最も多く68社、
▽「すでに見直した」が10社、
▽「見直しを検討している」が9社でした。
年功型賃金に比べ、終身雇用と新卒一括採用については、見直すかどうか、慎重に対応しようという企業の姿勢がうかがえます。
専門家「賃上げの勢い 弱まっている印象」
ことしの春闘での賃上げの見通しについて、雇用問題などに詳しい日本総合研究所の山田久 主席研究員は、「この数年、『官製春闘』とも呼ばれる政府からの賃上げ要請が続いてきたが、景気の先行きに不透明感が残り企業の業績も頭打ちになる中、賃上げに対する企業の慎重さが増している。賃上げの勢いが弱まっているような印象だ」と指摘しています。
また、年功序列や新卒一括採用など日本型の雇用の在り方については、「日本企業の従業員は長く雇用をしてもらうことで、競争力がある高品質の製品を生産してきた。こうした日本型雇用のいいところが改めて評価されながらも、成果主義型の雇用体系も増えていくと見られ、2つの仕組みが共存する形になっていくのではないか」と話しています。