新型肺炎をめぐる騒動を眺めながらいつも考えるのはチャイナ・リスクだ。世界中に広がる新型コロナウイルス。死亡者も感染者の数も、2002年11月に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)を上回った。発生から2カ月が過ぎたが、ウイルスの感染源も特効薬も感染経路もほとんど明らかになっていない。わかっているのは発生源となった中国湖北省武漢市と中国当局の初期対応の不手際だ。初期対応をうまくやれば、ここまで感染が広がることはなかったと多くの専門家が指摘している。そこで問題となるのは初期対応の不手際とは何か、ということだ。

先日、いち早く今回のウイルスの危険性を指摘した武漢市の眼科医・李文亮医師(34)が新型肺炎で亡くなった。この医師は発生当初このウイルスの危険性をツイッターで指摘したが、当局から事実でない情報を流したとして訓戒処分を受けている。この文氏にまつわるエピソードがチャイナ・リスクの本質をえぐり出している。新型コロナウイルスによる肺炎が派生した当初、文氏に限らず現場の医師たちは不穏なウイルスに気づいていた。だが、この情報はストレートには党中央に上がらず、逆に党中央が現場の医師たちを犯罪者扱いするという、とんでもない事態を引き起こしている。

正体不明の未確認ウイルスに直面した時、中国のみならず世界中の誰もが戸惑うだろう。日本で同じことが起こった時、初期対応を完璧に行えるかどうか、はっきり言って分からない。だが、少なくとも政府が現場の医師を犯罪者として処罰することはないだろう。この問題のごく初期に中国で起こったことは何か?鋭い感性で警告を発している医療の現場に政治が介入したということである。医療に無知な政治家が、専門家の医師が発する警鐘を無視して真実を覆い隠したのである。ここに今回のパンデミックの最大の問題点がある。習近平主席は「(新型肺炎との)戦争に勝つ」と政治的な発言をしている。これをトランプ大統領が絶賛する。政治が危機をつくりだしている。