米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、米経済が前例のない下振れリスクに直面していると指摘し、財政および金融当局がこの試練に立ち向かわなければ、家計や企業に長期的な打撃を及ぼす恐れがあるとの見解を示した。
パウエル議長は13日、オンラインセミナーで講演。事前に配布されたテキストによれば、「景気回復は勢いづくまで時間がかかる可能性があり、時間が経過すれば流動性の問題は支払い能力の問題に変わりかねない」と発言。「追加の財政出動はコストが伴う可能性があるが、長期的な経済的打撃の回避に寄与し、一段と力強い回復を遂げられるのであればその価値はある」と語った。
議長の講演内容が伝わると、米国債利回りとブルームバーグのドル指数は低下した。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、2021年にマイナス金利が導入される可能性の織り込みが幾らか進んだ。
講演は大量の経営破綻や失業がもたらす憂慮すべきシナリオを説明する一方で、そういう事態にならないよう当局者が一段の対応を迫られる可能性を指摘した。議長は14日に公表する調査結果だとして、年間所得が4万ドル(約428万円)を下回る家計の40%近くが3月に職を失ったと指摘した。
パウエル議長は「失業が長引けば持っているスキルの価値がなくなり、人脈も失われるため、労働者のキャリアに傷がつくか、終わる可能性がある。そうなればその家計の債務が大きく拡大する」と警告。「全米で数千もの中小企業が倒産すれば、多くの企業や地域のリーダーが一生かけて築いた仕事や先代から受け継いだ事業が失われかねない。そうなると経済が回復を迎えてもその力強さが限られてしまう」と述べた。
パウエルFRB議長、近い将来のマイナス金利導入の可能性を一蹴
議会とトランプ政権はこれまで、FRB緊急プログラムの費用4540億ドルを含む、3兆ドル近い経済支援策を通過させた。民主党と共和党は現在、州や地方自治体の歳入を強化する案など、追加支援策を巡り協議している。
パウエル議長は「経済政策によるこれまでの対応は時宜を得た適切な規模のものだったが、今後の見通しがかなり不透明で、強い下振れリスクに直面する恐れがあることを考慮すると、それが最終章ではない可能性がある」と話した。
前例のない措置として、FRBは米社債に投資する適格上場投資信託(ETF)の買い入れを12日から始めた。
議長は「危機が収まり、景気回復の足取りがしっかりするまで、引き続き手段を最大限に活用していく」と表明したが、金融当局にできるのはあくまでも融資であり、支出ではないと注意を促した。その上で、「危機が終われば、緊急手段は用済みになる」と語った。
原題:Powell Says Virus Poses Lasting Harm, More May Need to be Done(抜粋)