黄恂恂、Lisa Du、リーディー・ガロウド

  • 政府専門家会議の尾身副座長は国民の健康意識の高さを評価
  • 秋の第二波に備え、1日10万件PCR検査可能な体制必要と専門家

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言は、21日までに首都圏の1都3県と北海道を除き解除された。安倍晋三首相は、新規感染者数の減少が続けば、これらの地域についても31日の期間満了を待たずに解除する方針を示している。

  日本の新型コロナ感染症死者は21日時点で800人未満。海外のように厳しい外出制限や罰則を伴わない独自の「要請」対応は、成功裏に終わりを迎えつつあるように見える。

  緊急事態宣言が発令される中、人気のラーメン店には行列ができ、休業要請を無視して営業を続けるパチンコ店には客が押し寄せた。それでも政府は、プライバシーの観点からスマートフォンのアプリなどによる市民の移動の監視はせず、韓国のように大規模なPCR検査も実施しなかった。

Empty Streets As Japan Continues Quasi-lockdown
人通りの減った渋谷のスクランブル交差点(先月25日)Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

  国内では米国のような爆発的な感染拡大は発生せず、ここ1週間は1日当たりの感染者数が60人未満で推移している。 

  専門家会議副座長の尾身茂氏は、日本の医療制度、初期のクラスター対策、そして国民の健康意識の高さの3つの要因が寄与したと分析する。

保健所の人海戦術

  ワクチンが市場に出回るまで世界各地で新型コロナの影響は当面続くとされる中、感染症が沈静化に至っていない他国や国内で次の波に備えるために、今回の緊急事態宣言は示唆に富む。

  まず、早期の対応が大切だ。政府の対応が遅れたとする声がある一方で、1月に国内で初の感染者が確認された時点から保健所が、感染者との濃厚接触者の追跡に動いたことが効果を発揮したとの見方がある。北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授は、日本の方法は「アナログで、シンガポールのようにアプリを使った追跡ではない」が、「とても有効だった」と話す。

  厚生労働省の資料によると、2018年時点で全国の保健師数は約5万3000人で、そのうちの15.3%が保健所に勤務し、普段はインフルエンザや結核などの感染症対策に当たっている。北海道医療大学で感染症を研究する塚本容子教授は、「日本にはCDC(米国の疾病対策センター)のような機関がないとよく言われる」とした上で、「各地の保健所がCDCの役割を果たしている」と指摘した。 

  保健所による感染者の追跡は、ライブハウスやナイトクラブでの集団感染対策にも貢献した。

「対岸の火事」

U.S. Evacuate Citizens Onboard Diamond Princess Cruse Ship in Yokohama
ダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて横浜港を出るバス(2月21日)Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  2月に横浜に到着したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号では、乗員乗客含め700人以上が感染し、13人が死亡した。欧米諸国が「対岸の火事」として中国での感染拡大を見守る中、日本は他国より早く新型コロナの集団感染に直面することとなった。このことが国民の危機意識を高めたと指摘する声もある。

  早稲田大学政治経済学術院の田中幹人准教授は、「各国の多くの人々が、新型コロナはいずれは収まる病気だと楽観視していたころ、日本にとっては家の目の前でクルマが燃えているような状況がしばらく続いた」ため、国民は「コロナに対する警戒感を高めていた」と述べた。

  専門家らはクルーズ船での対応の経験を生かし、「密閉」、「密集」、「密接」の3要素がそろうと感染リスクが高いと指摘し、政府は「3密」を避けるよう国民に呼び掛けた。

第二波への備え

  緊急事態宣言は全国の9割の都道府県で解除されたものの、病院での集団感染をどう食い止めるかなどの課題も残る。無症状の感染者が新型コロナ以外の病気で病院を受診し、医療従事者やほかの患者に知らぬ間に感染させてしまうケースが後を絶たない。

  大阪府など関西圏の緊急事態宣言解除が決まった21日、神奈川県では新たに看護師など合わせて男女10人が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、県内の複数の病院で集団感染が続いている。

More Businesses Open As Virus Emergency To Be Lifted From Kansai Prefectures
緑色にライトアップされた大阪・通天閣(21日)Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  感染症が専門の昭和大学医学部の二木芳人客員教授は、「第一波をかわしたのは本当に運」であり、「呼吸器系のウイルスは気温が下がると活発になることが多い」ため「秋には大きな流行、第二波が来ることがあり得る」と指摘。

  「この間を利用して、PCR検査を1日10万件できるように準備しなくてはならない」とし、第一波への対応で「ぎりぎり」の状態だった医療体制も整える必要があり、「次の感染爆発が今より大きかったら、もう崩壊する」と警告した。

  世界保健機関(WHO)事務局長上級顧問を務める英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授は、感染者の追跡方法にも改善の余地があると指摘。「時間のかかる聞き取りによる追跡は、小規模の地域限定的な感染には有効」とする一方、「記憶の偏りがある上、アプリで接触者や利用施設を特定するよりは効率的でない」と答えた。

  日本では海外のように厳格なロックダウン(都市封鎖)は行われなかったが、経済への打撃は大きい。内閣府の18日の発表によると、1ー3月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率で3.4%減となった。

  観光庁によれば、4月の訪日外国人客数は前年同月比99.9%減の2900人。帝国データバンクの調べによると、3月の倒産件数は744件で、同14.3%増加した。販売不振などを原因とする「不況型倒産」が約8割を占める。

  緊急事態宣言解除後について三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、「コロナをコントロールできる範囲内で経済活動を再開させていくことになるため、V字回復は難しい」とのシナリオを描いている。