経産省の中小企業庁が一般社団法人サービスデザイン推進協議会(以下、サ協)に発注した持続化給付金問題。経産省の最高幹部、前田泰宏中小企業庁長官(56)が、民間業者とアメリカ・テキサス州へ視察旅行をしていたことが「週刊文春」の取材で分かった。前田氏らはアパートの一室を借り上げ、「前田ハウス」と称し、共に宿泊していた。サ協を取り仕切っていた平川健司業務執行理事も「前田ハウス」でのパーティに参加していた。

 2016年の設立直後から、サ協は「おもてなし規格認証事業」を皮切りに3事業を次々と受注。これらの事業はすべて経産省の商務情報政策局サービス政策課から発注されており、この間、前田氏は同局担当の大臣官房審議官だった。

中小企業庁長官の前田泰宏氏 ©共同通信社
中小企業庁長官の前田泰宏氏 ©共同通信社

「さらに今回、持続化給付金事業を所管しているのも前田氏がトップを務める中小企業庁。つまり、これまでに前田氏が責任者だった部署から計1100億円以上がサ協に流れています。経産省内で囁かれているのが、前田氏とサ協の実質運営者である平川氏との関係。その象徴がテキサス州で開催されている『サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)』の視察旅行です」(経産省関係者)

 前田氏の知人が明かす。

「2017年から前田氏は、テキサスで開かれる音楽、映画、新興企業の見本市が一体となった世界最大のイベント『SXSW』に参加しています。前田氏は、会場近くの一等地にアパートの一室を借り上げ、『前田ハウス』と命名。知り合いを集めパーティを開いていている」

「前田ハウス」内でのパーティ
「前田ハウス」内でのパーティ

「週刊文春」は関係者から当時の資料であるパンフレットや内部写真を入手。

〈前田House in SXSW Austin〉と題されたパンフレットには〈3/8―3/14まで6泊 (中略)(前田は3/8―3/12滞在)〉と丁寧に記載され、〈140㎡の大型アパートメントに15人で雑魚寝宿泊。女子部屋あり〉〈パーティーではビール、ワイン飲み放題、軽食フリー〉などの売り文句が並ぶ。さらに1人当たりの費用は〈上記宿泊+パーティ代合計21万円〉。振込先には前田氏の友人名義の銀行の口座番号が指定されていた。

宿泊+パーティ代で21万円
宿泊+パーティ代で21万円

 「前田ハウス」に足を踏み入れた男性が明かす。

「毎晩、4,50人が集まり、パーティが開かれています。経産省の前田さんの部下が料理担当で、軽食やお酒が沢山用意されていました。はるばる日本から訪れた中小企業の社長たちが手土産を片手に『前田詣で』に精を出していた。彼らにとっては経産省の幹部と知り合える絶好の機会なのです」

経産省はどう回答したか

 2017年に参加した別の民間業者は「前田ハウス」でくつろぐ平川氏の姿を目撃している。

「平川さんは『前田ハウス』で前田さんと仲良さそうに談笑していました。イベントのメイン会場のマリオットホテルのラウンジでも、前田さんと部下の方と3人でお茶しているのを見かけましたよ」

 平川氏はサ協を通じ、テキサスでの前田氏との面会の事実を認めた。

 公務員の倫理規定に詳しい国際基督教大学特任教授の西尾隆氏が指摘する。

「国家公務員倫理法第一条には『職務の執行の公正さに対する国民の疑惑や不信を招くような行為』を防止すると書かれています。省庁の意思決定に関わる現職の審議官が、電通のような利害関係者と食事を共にするだけでこれに抵触しうる。海外のアパートで会うなど論外で、完全に同法の趣旨に反しています」

右端に前田氏の姿が
右端に前田氏の姿が

 経産省は次のように回答する。

「知人が借りたアパートに複数の日本人と一緒に宿泊しましたが、参加者から費用を集めた事実はありません。当該アパートを借りた知人に対して21万円を支払っており、宿泊場所を提供したという事実もありません。公務員倫理規定では利害関係者と食事をする場合、事前に届出を行う必要がありますが、ご指摘のケースについては、費用や形式が届出の必要がないケースに該当します」

 だがパンフレットで「前田ハウス」と喧伝しているように、前田氏との接点を求める民間業者との“交流の場”となっているのは紛れもない事実。前田氏は持続化給付金に見られるように巨額の事業の執行を担当しており、こうした旅行が適切なのか論議を呼びそうだ。

 6月11日(木)発売の「週刊文春」では「前田ハウス」に参加した人物の証言やパーティの写真を掲載。前田氏と、平川氏など民間業者との関係について詳報する。