難病患者への嘱託殺人容疑で京都府警が医師2人を逮捕した事件で、問題となる「死ぬ権利」は世界各地で議論が続いている。裁判は繰り返され、議会内外の論争も尽きない。
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◇親族「毒殺だ」
欧州ではオランダとベルギーが2002年、ルクセンブルクが09年に「安楽死」を合法化した。フランスのように死期の迫った患者が延命を拒否する権利を事実上認め、スイスのように手続きに沿えば自殺ほう助を容認する国もある。
オランダの最高裁は4月、認知症が進み「もはや自分の意思を示せなくなった」女性を安楽死させた医師について「罪には問えない」と結論付けた。女性は症状が進む前に安楽死の希望を医師に伝えたという。しかし、実際の安楽死を前に心変わりはないか確認しなかったとして検察は医師を訴追していた。
ベルギーでも1月、北部ヘントの裁判所で、女性の自殺をほう助した精神科医らに陪審団が無罪の評決を言い渡した。親族が、治療が尽くされていないと非難し「毒殺だ」と訴えていた。自殺ほう助には、回復困難な患者本人の「自発的で、熟考を経た上での、繰り返しの」意思表示が要件だが、満たされていたと判断された。
◇「殺すな、治せ」
一方、ポルトガルやスペインの議会では2月、安楽死合法化に向けた審議が始まった。ポルトガルの医師団が「命を救う方法は学んだが、死に導く手続きに加わる準備はしていない」と反対する中、議会前ではデモ隊が「殺すな、治せ」と連呼した。
スペインでもカトリック教会や保守派の反対が強い。しかし、昨年4月、病に苦しむ妻の自殺を手助けした高齢の夫が逮捕され、尊厳死の議論は高まった。サンチェス首相は「尊厳死の権利を認めるための重要な一歩だ」と強調した。
イタリアでは憲法裁が昨年9月、「耐え難い苦しみ」を抱えた人の自殺を助けた場合、必ずしも罪にはならないという判断を示した。ただ、コンテ首相は「(安楽死に関わるのは)嫌だと感じる人の良心に基づく反対は認めないといけない」と地元紙に語り、サンチェス首相とは逆に合法化には否定的だ。
欧州以外でも、オーストラリアでは昨年6月、南東部ビクトリア州で終末期の患者の安楽死を認める法律が施行され、61歳の女性に翌7月、適用された。娘が「長い間、痛みに苦しんだが、進む準備はできていた。あっという間だった」と声明を出した。ニュージーランドでも今年9月、安楽死を認めるか、国民投票を行う。(パリ、ハーグ、ブリュッセル、リスボン、マドリード、ローマ、シドニー、ウェリントンAFP時事)。