薬価抑制を促す米大統領令に署名するトランプ氏=24日、ワシントン(EPA時事)
薬価抑制を促す米大統領令に署名するトランプ氏=24日、ワシントン(EPA時事)

 【ワシントン時事】新型コロナウイルス危機を受け、米国では医療費高騰が大統領選の主要な争点に浮上している。医療費の増加率は約27年ぶりの高水準に達し、国民1人当たりの年間医療費も日本や欧州の約2倍となった。トランプ大統領は24日、薬価抑制を促す大統領令に署名したが、医療制度改革をめぐる与野党の立場には開きがあり、実現するかは不透明だ。

 「大胆かつ歴史的な措置だ」。トランプ氏は高齢者層の支持率低下を食い止めようと大統領令を自賛した。公的保険が適用される処方薬の自己負担額を他国の水準に連動させるなど四つの目標を掲げた。ただ、製薬業界の反発で調整が難航しそうな施策もあり、明確な工程表は示せていない。

 医療制度改革はトランプ氏が前回の選挙で掲げた公約の一つだが、就任後の実績はわずか。前民主党政権の保険改革法「オバマケア」廃止を目指したが代替案を出せず、議会に再三要求していた薬価引き下げの法制化も棚上げされたままだ。

 医療費の高騰は深刻な状況にある。6月の米政府統計によると、全米の医療費増加率は前年同月比で6.0%と、1993年以来の大きな伸びを記録した。1人当たりの年間医療費の平均は1万ドル(約106万円)を超え、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も高い。

 コロナ危機は「無保険者」の急増も招いた。米国の成人536万人余りが失業と同時に医療保険を失い、今年5月末時点で成人人口の約16%が保険に加入していないとの試算もある。秋の大統領選で民主党候補指名を固めたバイデン前副大統領の陣営は「コロナ対応の不手際と合わせて医療問題で攻勢をかける」として、トランプ氏が逆風にさらされる中で政権奪還への自信を強めつつある。

 ◇医療分野の争点と両陣営の主張
【医療保険制度改革法】
▽トランプ氏
 保険加入を義務付けたオバマケア廃止
▽バイデン氏
 オバマケアを拡充
【薬価引き下げ】
▽トランプ氏
 他国の安値水準を参考に民間が価格決定
▽バイデン氏
 政府は価格決定に積極関与
【公的保険の加入条件】
▽トランプ氏
 低所得者保険の条件を厳格化
▽バイデン氏
 高齢者保険の最低年齢を65歳から60歳へ