- ブラックストーンの営業網活用し台湾や中国、タイなどで事業展開へ
- 武田薬CEO、大衆薬事業で成長機会の獲得行うのは難しいと判断
米投資ファンドのブラックストーン・グループは24日、武田薬品工業の一般用医薬品(大衆薬)を手がける完全子会社の武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)を、約2400億円で買収すると発表した。非中核事業として武田薬にとっての優先順位が落ちていたTCHCに潤沢な投資を実施し、新商品や海外展開で一段の成長を目指す。
ブラックストーンや武田薬の発表などによると、株式譲渡日は来年3月31日付を予定。TCHCの企業価値2420億円に同社の有利子負債などを勘案した上で、実際の譲渡価格を確定する。ブラックストーン側の財務アドバイザーは三菱UFJモルガン・スタンレー証券、武田薬側は野村証券がそれぞれ務めた。
武田薬は約1400億円の株式売却益(税引き前)が生じる見通しといい、純利益への影響は約1050億円を見込む。今期(2021年3月期)業績への影響については、事業環境などの変化も考慮の上、適時に見直すとした。
TCHCの主力商品はビタミン剤の「アリナミン」、風邪薬の「ベンザブロック」など。複数の関係者によると、売却額は当初30億ドル(約3200億円)以上が見込まれていたが、コロナ禍でTCHCの財務が影響を受けたことなどから売却価格が下がったという。
武田薬のクリストフ・ウェバー最高経営責任者(CEO)は同日、オンライン形式で会見し、「アリナミンは良く知られたブランドで、ぜひキープしておきたいと思っていた」と述べた上で「事業をキープして成長のための投資が十分にできないのは良くない。拠点の強化や広告への投資、成長機会の獲得を武田薬が行っていくのは難しいと考えた」と説明。主力の医療用医薬品事業に注力する考えを示した。
ブラックストーン・グループ・ジャパンの坂本篤彦シニアマネージングディレクターは、ブルームバーグの取材に対し、政府による医療費抑制の流れの中で、大衆薬事業にはまだまだ成長の余地があると指摘。「この数年、投資が行き届かずに新商品が出なかったことなどで、シェアを一部奪われてしまっていた。しかし、われわれにとってはコア中のコア事業になる。傘下で自立成長の軌道に乗せたい」と抱負を述べた。投資額は5年で500億円をめどとしている。
具体的には、アリナミンやベンザから派生する新商品の発売やプロモーションに資金を投入し国内でのシェア拡大を目指すほか、ブラックストーンの営業網を活用して台湾や中国、タイなど海外展開を強化する。坂本氏はまた、国内最大手の武田薬が大衆薬事業を売却したことで「同業他社でも同じような動きが起きるかもしれない」と指摘。相乗効果を見ながら、そういった先の取り込みも模索するとした。
野上麻里社長らTCHCの現経営陣は続投する見通し。ブラックストーンは坂本氏ら3人を取締役として派遣する。出口戦略について、坂本氏は自立成長の軌道に乗ることを前提に、5年をめどに新規株式公開(IPO)を目指すとした。
武田薬は19年1月に7兆円弱でアイルランドの製薬大手シャイアーを買収したため負債がかさみ、非中核事業の売却を進めている。17日には、国内で希望退職の募集を発表していた。武田薬は1兆円規模の資産売却方針を掲げており、TCHCの売却で目標額に達する見通し。
ブラックストーンは18年までに計約1兆円のアジア太平洋ファンドを組成するなど中国や日本への投資を強化。ヘルスケア分野は、19年3月に大衆薬「カロナール」で知られるあゆみ製薬の買収を発表するなど重点分野の一つ。