[27日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)は27日、新型コロナウイルスの影響で世界的に雇用と物価の下方リスクが高まる中、米国の完全雇用を復活させ、物価を健全な水準に戻すための新たな戦略を発表した。インフレ率が「一時的に」2%を上回ることを容認し、長期的に平均2%の目標達成を目指すほか、最大雇用の確保を図る。
新戦略は、政策当局者17人全員一致の下で採択された。
パウエル議長は国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)の講演で、「広範かつ包括的」な雇用に重点を置くとともに、物価よりも雇用を重視し、最大雇用の確保に努めると表明。低インフレ期間を相殺するため、2%を超えるインフレ期間を容認し、インフレ率が長期的に平均2%となるよう目指す考えを示した。
これにより、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利は、現在のゼロ%近辺に何年もとどまる可能性が出てきた。
同時に、雇用や物価への下方リスクは高まったと認め、最大雇用と物価安定の目標達成に向けあらゆる手段を駆使する用意があると強調した。
パウエル氏は「新たな声明は、特に低・中所得者層の多くの人々に対し強力な労働市場がもたらす恩恵へのわれわれの評価を反映している。堅固な労働市場は望まないインフレ率上昇を引き起こすことなく維持できる」と語った。
また「堅調な労働市場を維持することは国の重要目標であって、金融政策支援に加えて様々な政策対応を必要とするが、そのメリットは計り知れない」とした。
経済には「多大な力がある」にもかかわらず、飲食や観光業などでは職を追われた人々が再就職に苦慮しており、政府による安定した支援が必要になるほか、完全な雇用回復には何年もかかるだろうと警告。「経済の中でも、飲食や航空、宿泊、娯楽といった業種は回復が非常に困難だろう。何百万人もの人々が仕事を見つけるのに苦労している。われわれはそういう人々を支える必要があり、少なくとも数年のロングテールを見込む」と述べた。
インフレ率が「FRBの目標と合致した水準を超えて」上昇した場合は「行動をためらわない」とし、いかなるインフレ率のオーバーシュートも小幅で長期間継続しないと表明した。
FF金利については、長期的な最大雇用と物価安定に合致した金利水準が歴史的平均と比較して低下したと指摘。事実上の下限による制約は過去よりも頻発する公算が大きいとした。
その他、5年に1回程度のペースで金融政策戦略の抜本的見直しを行う方針を示した。
新型コロナ禍で何千万人も職を失い、米国経済が深刻な経済危機に陥る中で、今回のFRBの新戦略は経済の根本的な変化を反映しつつ、弱成長・低インフレの下、政策運営を行う際の指針となる。戦略変更に伴い、低金利の期間は従来予想よりも長引く可能性があるものの、FRBはこの点について明確には触れていない。実際、パウエル議長は、FRBの物価に対する新たなアプローチは明示的な数式によって特定されないとしている。
メロンのチーフエコノミスト、ビンセント・ラインハート氏は「パウエル議長が利上げを望んでいないことに驚きはない」が、FRBがある程度の物価上昇を容認すると文書に明記したことは注目に値すると述べた。
こうした中、ダラス地区連銀のカプラン総裁は27日、インフレ率が1年間にわたり3%にとどまることを容認すると同時に利上げを実施しないことには違和感を感じると表明。ただインフレ率が2.25%、もしくは2.5%にある状態はFRBが示した新戦略と整合性が取れているとの見解を示した。