- 微信が中国共産党の価値感と整合性保つようテンセントは取り組む
- トランプ政権の大統領令についてのニュース自体も微信から消えた
トランプ米政権が安全保障上の問題を理由に「TikTok(ティックトック)」と「微信(ウィーチャット)」という2つの中国アプリを事実上禁止する大統領命令を8月6日に出すと、ティックトックの幹部は中国や中国当局とは距離を置いているとして、すぐにユーザーの懸念払拭(ふっしょく)に努めた。
一方、微信を所有するテンセント・ホールディングス(騰訊)はそれほど性急な動きは見せなかった。微信が中国共産党の価値感と整合性を保つよう何年も取り組んできた同社は、翌日になって大統領令の「潜在的影響を検証する」としたが、米国の主張する安全保障懸念には対応しなかった。大統領令を攻撃したのは中国政府だった。外務省の汪文斌報道官は8月7日の記者会見で、「いじめそのものに他ならない」と批判した。
バイトダンス(北京字節跳動科技)運営のティックトックが短編動画の投稿アプリであるのに対し、微信は検索やソーシャルメディア、決済などあらゆる機能を備えた万能アプリだ。中国ではこのアプリなしにタクシーをつかまえたり、ピザを注文したりすることは難しいが、米当局によれば、微信は厳しく検閲・監視され、国外に住む何百万という中国人向けプロパガンダのメッセージツールとして使われている。
実際、微信は中国系住民の多い国で効果を発揮し得る。こうした人々の情報源となることが多く、昨年のオーストラリア連邦議会選挙では、主要政党のリーダーが中国系有権者との質疑応答で微信を利用した。
オーストラリア戦略政策研究所のファーガス・ライアン研究員は「中国の検閲・プロパガンダ組織がテンセントやバイトダンスのような企業にまで責任を負っていることに留意することは重要だ」と指摘している。
不具合
微信ユーザーが既に何年も耐えているのは、中国国外から国内の人々とやり取りする際の不具合だ。中国入国前に写真が削除されたり、キーワードが使えなくなったり、メッセージ全体が失われたりする場合もある。共産党が攻撃的もしくは反体制的、厄介だと見なせば何であれすぐになくなってしまうのだ。
トロント大学ムンク国際問題・公共政策大学院のシチズンラボによると、微信に関するトランプ政権の大統領令についてのニュース自体も微信から消えた。
1989年の天安門事件当時、学生リーダーだった周鋒鎖氏は米国に帰化し米国に住んでいるが、過去7年間に何度も微信のアカウントが停止され、「検閲は極めて明白だ」と話す。ノーベル平和賞を受賞した民主活動家の劉暁波氏が2017年に死去した直後、劉氏の死を悼んで劉氏夫妻の写真を友人と微信でシェアしようとすると、グループチャット内のメンバーに送った画像や、中国の国内外にいるユーザーに送信した多くのメッセージが届かなかったという。
周氏は中国の「防火長城(グレートファイアウオール)」と呼ばれる大規模なインターネット情報検閲システム内では「プライベートなやり取りはできないという事実を認識する必要がある」と言う。同氏が直接話した中国本土の活動家によれば、体制批判を広めるため微信を使う反体制的なユーザーの元には当局者が出向き、報復を受けると脅すのだそうだ。
原題:WeChat Is China’s Everything App, and ‘We’ Is Looking Suspicious(抜粋)