[フランクフルト 10日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は10日の定例理事会で主要な政策変更を見送った。ラガルド総裁は新型コロナウイルス禍からの景気回復を巡りやや前向きな見方を示した。また、焦点となっているユーロ高については影響を注意深く見守ると述べるにとどめ、踏み込んだ発言を控えた。
3月に開始したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い取り枠は1兆3500億ユーロに維持。買い入れ期間は少なくとも来年6月末までとし、2022年末まで再投資を継続することを確認した。
資産買い取りプログラム(APP)については、月額200億ユーロ規模での債券買い取りに加え、追加で1200億ユーロの資産買い取りを年末まで継続する。
ECBは「インフレ率が目標に向かって持続的に推移することを確実にするため、対称性へのコミットメントに沿って、引き続き全ての手段を適切に調整する用意がある」と述べた。
ラガルド総裁は理事会後の会見で、ECBはユーロを注意深く見守っているとしながらも「為替レートを目標にしているわけではない」と強調。また、8月に2016年以来初めてマイナスに転じたユーロ圏のインフレ率がユーロ高の影響を受けていることにも言及した。
その上で「ユーロ高が物価にマイナスの圧力になるほどなら、注意深く監視しなければならないことは明らかで、理事会で広範囲に議論した」と述べた。
ユーロの水準についてはコメントしないとし、ECBの既存の予想にはデフレリスクは含まれていないと語った。
ラガルド氏が一段と踏み込んだ発言を控えたことで、ユーロEUR=は一時0.5%値上がりした。その後は0.4%高の1.1846ドル。
プリンシパル・グローバル・インベストメンツのチーフストラテジスト、シーマ・シャー氏は「ECBがユーロ高への対応で実際には打つ手がほとんどないことを市場は見抜いている。金利はほぼ限りなく低く、種々の資産購入・融資プログラムはすでに相当な規模に膨らんでいる」と述べた。
こうした中、複数の関係筋によると、理事会ではユーロの上昇が経済ファンダメンタルズとおおむね整合的と判断したほか、米国との「通貨戦争」が発生しないよう、ユーロ高を現時点では看過することで一致。1ユーロ=1.20ドルという水準は、現時点で均衡為替レートに近く、ECBが行動を起こすきっかけにはならないとの声もあったという。
ラガルド総裁は経済に関して、コロナ感染の第2波が「逆風」となるものの、経済活動は力強く持ち直しているとし、今年の成長見通しをやや上方修正した。インフレ率は今年の見通しを0.3%に据え置く一方、来年は6月時点の0.8%から1%に引き上げた。
政策変更の可能性については、既存の措置が「効率的かつ効果的」で、1兆3500億ユーロのPEPPは「現在の状況の下、全額利用される可能性が高い」と指摘。PEPPの変更は議論されなかったとした。刺激策の将来的な拡大には一切触れなかった。
ピクテ・ウェルス・マネジメントのストラテジスト、フレデリック・デュクロゼ氏は、ECBが直ちに金融緩和に踏み切る兆候は見られないが、「脆弱な成長とディスインフレ圧力に伴い、ECBは12月にもPEPPを5000億ユーロ増額せざるを得ないだろう」と予想した。
ラガルド総裁はデジタル通貨について、利点と問題点の双方を検討しており、向こう数週間以内に結果を公表すると明らかにした。