「大阪都構想」の是非を問う住民投票が12日告示され、静観を決め込む菅義偉首相と、同構想に反対する自民党大阪府連のずれが際立ってきた。府連は否決に追い込んで構想を推進する日本維新の会に打撃を加えたい考えだが、首相や自民党本部には国会運営などで維新と引き続き連携したい思惑がある。一方、立憲民主党や共産党は、維新の勢力伸長を強く警戒している。
「都構想に反対の立場で行動させていただく」。大阪府連会長の大塚高司衆院議員は8日、官邸に首相を訪ね、府連の方針を伝達。首相は賛否に言及せず、「頑張ってください」と述べただけだった。
首相は安倍政権時代から維新の「改革姿勢」を高く評価し、同党を旗揚げした橋下徹氏や党代表の松井一郎大阪市長と気脈を通じてきた。官房長官として旗を振ったカジノを中核とする統合型リゾート(IR)実施法成立の際、維新が賛成。安倍政権は憲法改正への協力に期待もあり、2025年国際博覧会の大阪誘致を後押しした。
一方、府連は維新と激しく争う次期衆院選をにらみ、同党の勢力拡大の芽を摘んでおきたいところ。17年衆院選の大阪府内全19選挙区の勝敗は自民10勝、維新3勝。だが、自民は議席を得た7選挙区で次点の維新に1万票差以内に迫られており、党関係者は「全敗もあり得る」とみる。府連関係者も、都構想が可決されれば「衆院選への影響は避けられない」と危機感をあらわにした。
府連は都構想への反対運動を展開しようと経費の支援を党本部に求めたが拒否された。党幹部は「党本部はノータッチだ」と宣言。ある閣僚は「首相は維新との関係を大事にしたいから可決を願っている」と明かした。政権にとって野党の一枚岩を阻む維新は都合の良い存在と言え、今後も首相の態度は変わりそうにない。
◇維新に屈した公明
公明党は15年の住民投票では反対したが、衆院選でのすみ分け解消をちらつかせた維新の圧力に屈する形で賛成に転じた。公明関係者は「民意は維新にある。衆院選を考えれば協力するしかない」と諦め顔だ。
維新は衆院選での全国進出をにらみ、住民投票での勝利を起爆剤にしたい考えだ。12日は松井氏と吉村洋文大阪府知事がそろって街頭に立ち、府選出の国会議員も総出で支持を訴えた。党幹部は「勝てば大きく勢いがつく」と鼻息が荒い。
立憲と共産は、都構想を断念に追い込む構え。立憲の辻元清美副代表は12日、大阪市内で「『絵に描いた餅を食べたら毒まんじゅうだった』というのが都構想だ」と訴え、共産の小池晃書記局長も同日の記者会見で「政権補完勢力の維新に痛打を与える」と敵意をむき出しにした。
国民民主党は賛否を明確にしていない。前原誠司代表代行は維新との勉強会で賛成決議をまとめたが、関係者は「立憲といさかいを生む必要はない」と都構想への協力には否定的だ。