EVのテスラが暗号通貨(仮想通貨)ビットコインを約15億ドル(約1575億円)購入した。金額の多寡より購入動機の方が興味深い。ロイターによるとテスラは規制当局への提出文書で、ビットコイン購入は投資計画の一環で、資産の多様化とリターンの最大化が目的と説明。今後「時折もしくは長期的に、デジタル資産を購入、保有する」可能性があるとの見通しを示した。同社は、昨年末時点で193億8000万ドルの現金および現金同等物を保有していた。巨額な保有資産のリスク回避を目的とした分散投資だけなら驚くにあたらない。興味深いのは次の一文だ。「わが社は近い将来、適用法に沿って、まずは限定的に支払い手段としてのビットコイン受け入れ開始を想定している」と明らかにした。要するにEVの支払い手段としてビットコインを受け入れるというのだ。

これを受けてビットコインの相場が急騰した。年明けから猛烈な勢いで騰勢色を強めていたビットコイン。昨日は一時4万2000ドルまで急騰した。テスラの創業オーナーであるイーロン・マスク氏はつい先日、ゲームストップ株の急騰劇にチラッと顔を見せていた。金融大変革の仕掛け人の1人とみていい。その人が今度は暗号通貨だ。暗号通貨で世界をリードしているのは中国だ。中央銀行である人民銀行はすでに暗号通貨の実証実験を始めている。中国では近い将来日常生活の中に暗号通貨が入ってくるだろう。グリーンリカバリーの推進エンジンでもあるEVは中国で一気に広まる可能性がある。ビットコインはその際の決済通貨になる可能性もある。マスク氏は中国と極めて近い。暗号通貨決済の準備を始めるのは至極当然の成り行きだ。バイデン政権もグリーンリカバリーを最優先課題に掲げている。今後4年間で1兆7000億ドル(約178兆円)を投資すると表明している。

気になるのはマスク氏とバイデン大統領の関係だ。両氏が手を組めば米中蜜月時代の到来が思い描ける。米国を代表するFBやTwitterなどビックテックは親バイデンとして知られている。大統領選挙では露骨にトランプ氏の足を引っ張っていた。マスク氏のバイデン氏との関係が親か反か是々非々か分からない。だが経済成長に重点を置くなら手を組む可能性は高いだろう。その時、ウイグルやチベット、香港、台湾がどうなるのだろう。もっと言えば、E Vも暗号通貨も表面的には脱CO2だ。だが、EVも暗号通貨もそれを生産するために裏で大量のCO2を排出している。簡単に言えば目に見える表は“きれい”だが、見えない裏はありていにいって“汚い”のである。表面的には分からない両国の根深い関係。人権や格差を無視して経済成長のために手を握るとすれば、それはグリーンリカバリーに名を借りた“グリーン・ウォッシュ”かもしれない。