[ロンドン 9日 ロイター] – オンライン掲示板サービスのレディット内の株式取引フォーラム「ウォールストリートベッツ」を足場に広がった米個人投資家の熱狂が、欧州にも波及している。銀行や証券会社が明らかにした。
英国や他の欧州諸国では、比較的若い投資家の間でオンライン取引プラットフォームの利用が急速に拡大しているほか、既存の証券会社での株式取引も増えている。米個人投資家は今年に入って米国のゲームストップやAMCエンターテインメントといった銘柄の売買でもうけたが、これと同じような体験ができると期待し、そっくりまねをする動きだ。
英国を拠点とするオンライン証券取引プラットフォームのフリートレードはロイターに、1月の新規契約が16万件を超え、契約総数も50万件を突破したと述べ、まさに「レディットラリー」と呼ばれる株高がもたらした熱気のおかげだと指摘した。
同社のドッズ最高経営責任者(CEO)は「特定の株式や資産クラスが値上がりする可能性を巡って投資家が非常に興奮している局面では、それにまつわる話が金融界から一般社会に広がっていくことがあり得る」と熱気の背景を説明する。
欧州では昨年から既に個人の株取引は活発だった。自由になるお金を抱えたまま新型コロナウイルスのパンデミックのため自宅に閉じこもって退屈な時間を過ごしていた個人投資家が、市場の乱高下で一稼ぎしようとしたところに、簡単に使えるさまざまな投資アプリが登場して彼らに手段を提供したからだ。
アムステルダムが拠点のデジタル専業証券BUXのニック・ボートット共同CEOは、個人の株式取引が急増した理由として、欧州大陸に(1)超低金利(2)住宅価格高騰(3)不十分な年金制度――という他の面の条件があった点も忘れてはいけないと指摘。そこにレディット発の熱狂が加わり、投資を一気に加速させたとみている。
ボートット氏は「ゲームストップなどの株価が大きな話題となってからの数週間で、1日で数千もの顧客が当社を利用するようになった。これは通常時の平均の2倍ないし3倍の規模になる」と驚く。
既存の証券会社も恩恵に浴している。英バークレイズによると、1月の顧客による証券会社相手のクレジットカードとデビットカードの支払額は前年比で300%に上った。支払額の増加は昨年から続いており、主に18歳から29歳の若者が主体だ。
<後発組の悲劇>
一方で当局者、または当の証券会社も、今回の投資ブームにはリスクがあり、特に後発で参加しながら簡単に稼ごうと考えている人は注意が必要だと警鐘を鳴らしている。
米国では、ゲームストップなど巨大ヘッジファンドが空売りする銘柄に個人が買い向かおうと、ソーシャルメディアがあおり立てて始まったレディットラリーに対し、早い時期に便乗した一部投資家は多額の利益を手にした。
ところが遅れてやってきた投資家はひどい損失に見舞われた。約2週間前に483ドルまで跳ね上がっていたゲームストップ株が先週、一時51ドルに沈んだからだ。イエレン米財務長官は、当局が注視していると表明し、警戒感をにじませた。
欧州連合(EU)当局者も、パンデミックに起因する各種行動制限が導入されて以来、個人投資家のオンラインによる株式取引が急増している事態を受けて、何らかの介入に動く可能性を示唆している。
銀行や証券業界関係者の話では、欧州で今投資ブームの渦中にある人の多くは、域内企業よりも米企業に注目している。ロンドンで働くある米銀のトレーディング責任者は「新たに株式取引口座を開設する米国外の個人投資家が増えている。ほとんどは世間一般の人々で、パンデミックのせいでオンライン以外の取引手段が事実上なくなったような人たちだ。その結果、一部の個人は米国株に対する投資を拡大しつつある」と述べた。
米国外の若い投資家が地元企業より米企業の株式を保有したがるのは、レディットラリーの対象というだけでなく、それがアップルやアマゾン、テスラなど世界的に有名な企業だからという面もある。
フリートレードは、英個人投資家が出す注文のうち米上場銘柄は55%、英上場銘柄が45%だと明らかにした。
英国のリーズ在住でフリートレードを利用している22歳のルイス・ハーディングさんも、米国株と英国株の双方を運用する1人。保有銘柄はフェイスブック、バンク・オブ・アメリカ、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、ユニリーバなどだ。
ハーディングさんが投資を始めたのは2017年で、最初に買ったのは世界最大の大麻関連企業アフリア。これが見事に実を結び、初めての車を購入できるほどの利益があった。その後はより大きな、安定した企業の株への投資を中心にしているという。
投資は独学で、書籍やユーチューブの動画、ポッドキャストの聴講などを通じて学んだと話すハーディングさん。過去数週間の市場の出来事には興奮冷めやらない様子だ。「今起こっていることにはかなりびっくりしている。私はゲームストップ株を買わなかったが、状況は観察していた。まさに正気の沙汰ではなかった」と語った。
(Lawrence White記者、Anna Irrera記者)