誰かにこう聞かれたら私は躊躇なく「そう思う」と答える。だが、米国大統領が同じ質問を受けた時、仮に心の中でそう思っていたとしても、絶対口にしてはいけない言葉だろう。そんな不規則発言が大統領の口から堂々と発せられた。舞台はABC テレビ。同局の看板番組であるABCニュースのアンカー、ジョージ・ステファノプロス氏がいきなりバイデン氏に対して質問した。ロシアのプーチン大統領は「殺人者」だと思うか。バイデン氏は力強さにはかけるものの、間髪を入れずに答えた。「そう思う」(Yes I Do)と。たったそれだけ。答えはそれ以上でもそれ以下でもない。正真正銘のこれだけである。だが、反響は凄まじかった。プーチン氏は翌日、バイデン氏に対し、「生中継を条件としたオンライン会談を近日中に行うことを提案した」(時事ドットコム)のである。

プーチン氏は反体制指導者のナワリヌイ氏を飛行機の中で毒殺しようとした。以前にも同様の事件が起こっている。反プーチンのジャーナリスト、アルカディ・バブチェンコ氏(41)が亡命先のウクライナの首都キエフで殺害された(2018年)。同じ年に英国では亡命ロシア人元スパイの毒殺未遂事件が起こっている。これらの暗殺事件にプーチン氏が直接手を下したわけではない。だがどの事件にもロシアの秘密機関が関与していると見られており、最高責任者であるプーチン氏は間接的に反体制指導者を殺害したことになる。シリアのアサド政権は残虐な手段で反体制派を圧殺している。その政権を中心となって支えているのはロシアのプーチン大統領である。プーチン氏はここでも間接的に反体制派を殺害していることになる。

プーチン氏だけではない。オバマ元大統領はオサマ・ビン・ラディの殺害を指示した。トランプ前大統領は、イランの英雄と言われたソレイマニ司令官を無人攻撃機で殺害、大喜びしていた。北朝鮮の金正恩総書記は何の躊躇もなく多くの人を殺害している。世界の指導者は多かれ少なかれ「殺人者」だ。これがおぞましくもあり、怖しくもある現実だ。それ以上にすごいのは、そんな現実すら利用しようとする首脳のドス黒い“本心”だ。プーチン氏は「人殺し発言」を逆手にとってバイデン氏に首脳会談を申し入れた。時事ドットコムによると「2国間関係のほか、核軍縮、地域紛争、新型コロナウイルス対策を協議する考えを示した」。ひょっとするプーチン氏はクリミア併合に伴う経済制裁の解除と、米ロ関係の改善を狙っているのではないか。認知症が進んでいると囁かれているバイデン氏、凄腕プーチンにどう答えるのだろうか・・・。