深刻化する米中の対立。先週は欧米がウイグル人の人権抑圧に関連して中国に対する制裁措置を発動した。これに対して中国は即座に欧米よりはるかに厳しい逆制裁措置を発動。さらに欧米衣料品ブランドの不買運動を始めるなど、中国をめぐる動きが慌ただしくなっている。中国共産党青年部主導と見られる不買運動は、メディアの報道を見る限り徐々に拡大する傾向を見せている。だが、不買の対象は比較的影響力の小さいところに集中しているようで、抑制的な気配も感じられる。一方で中国はタイミングを図ったかのように、イランとの間で25年に及ぶ包括的な投資協定に調印した。「協定では、中国がイランの港湾・道路整備、エネルギー分野、高速大容量規格『5G』構築などに投資。イランは見返りに中国へ原油を格安で安定供給する」(時事ドットコム)。何やら米中の対立、一段と深刻化しそうな様相を見せている。

最近の米中関係を簡単に振り返ると、対立の構造はより鮮明になる。バイデン大統領になって米国の対中国戦略が動き出したのは今年の3月。上旬に公表した外交・安全保障の指針でバイデン政権は中国を、経済や技術力などあらゆる観点で「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」(日経新聞)と位置づけた。そして、同盟国や価値観を同じくする民主主義国と連携しながら中国に対応するという基本方針に沿ってクワッド首脳会議をオンラインで開催した。さらに日韓との対面形式による閣僚対話、「2プラス2」をへて18日にはアンカレッジで、米中の外交当局者による直接対話を行なった。この席で中国は激しい言葉で米国を非難、バイデン政権で始まった米中対話が前途多難であることを世界中に見せつけた。米中とも事前にジャブの応酬を繰り返していたが、両国関係の険悪化を主導したのは中国だったと言っていいだろう。

そのあとブリンケン国務長官はヨーロッパに渡りNATOとの関係改善、EU首脳との会談などを行ない、西側陣営との協調論戦を明確にしている。そして、この直後に米国、英国、EU、カナダが歩調を合わせて新疆ウイグル自治区に対する制裁措置を発表する。これに抗議する形で中国は即座に逆制裁とイランとの投資協定締結、ロシアとの外相会談など西側に対する逆包囲網を活発化させた。この動きに合わせて中国国内で始まったのが不買運動である。最初に標的となったのはスウェーデンの衣料品メーカーH&M(へネス&マウリッツ)。同社は昨年ウイグル綿の使用禁止に踏み切っているが、中国は半年も立ってからいきなり同社製品の不買運動をはじたのである。同じ不買運動でもナイキやアディダスなど中国国内で影響力のあるブランドに対しては今のところ抑制的であり、この辺に予想外の展開となった西側の包囲網づくりに対する中国の焦りがあるようにも見えるのだが・・・。