【ニューデリー=小峰翔】新型コロナウイルスワクチンの製造大国であるはずのインドが、一転してワクチン不足に陥っている。3月から感染第2波に見舞われて国内需要が急増する一方、海外向けの供給を絞るのが遅れたことが原因だ。国内では先週以降、接種会場の閉鎖や接種制限が相次ぎ、国民には不安が広がる。

 「在庫が切れたので接種はできないと言われた」

 北部ウッタルプラデシュ州の接種会場前で9日、ナレンドラ・シンさん(64)は、整理券を握りしめながら困惑していた。会場に届くワクチンの数が減っているといい、シンさんは、「政権と地方政府の管理ミスだ」と憤る。

 インドの新規感染者数は12日、過去最悪となる16万人超を記録した。それでもマスクをしない国民はいまだに多い。新たな変異ウイルスも見つかった。

 インド政府は1日あたりの新規感染者数を約1万人まで抑えた1月、国内でワクチン接種を始めた。2月までは1日約50万回だったが、4月から対象年齢を45歳以上に広げたこともあり、ペースが加速。5日には430万回を記録した。総計は11日、1億回に達した。

 一方で海外への供給は、約6400万回分に上っている。政府は先月下旬、輸出を制限して国内に回そうとしたが、手を打つのが遅く、8日頃から在庫不足が一気に表面化した。

 ハルシュ・バルダン保健家庭福祉相は、「ワクチン不足は根拠がない」と否定するが、民放NDTVによると、新規感染者が最も多い西部マハラシュトラ州では、70以上の接種会場が閉鎖された。南部や北部の州も「在庫がなくなる」と訴えている。ワクチン製造最大手の関係者は、「国内需要に対し、生産は月約3000万回分足りない」と分析する。

 ワクチンの原料が、米国と欧州連合(EU)の輸出制限措置で不足していることも不安材料だ。早急に確保できなければ、ワクチン製造にも影響し、問題が深刻化する恐れがある。