韓国のソウル中央地裁が、元慰安婦や遺族ら12人への賠償を日本政府に命じた判決をめぐり、原告が訴訟費用の確保のために求めた日本政府の資産差し押さえを認めない決定をし、原告側に通知していたことがわかった。決定は差し押さえについて「国際法に違反する恐れがある」との判断を示した。同地裁が20日、韓国メディアに明らかにした。

 1月に判決が確定した裁判で日本政府は、国家は外国の裁判権に服さないとする国際法上の原則「主権免除」を理由に裁判を認めていない。日本政府が賠償に応じる見込みがないことから、原告は韓国内にある日本政府の資産を差し押さえることを検討し、地裁に日本政府が韓国内に所有する財産の開示を求める手続きを申し立てていた。

 今回の地裁決定で、賠償の履行を目的とした日本政府の差し押さえも、認められない可能性が高くなった。日本政府の資産差し押さえについては、在外公館の不可侵を定めたウィーン条約があり、韓国政府関係者からも「現実にはあり得ない」との見方が出ていた。

 決定は、確定判決を有効としつつ、外国の資産への強制執行はその国家の主権侵害にあたる可能性を指摘。韓国内の日本政府の資産を差し押さえた場合、「憲法上の国家安全保障、秩序維持、公共の福祉と相反する結果を招く」と懸念を示した。

 21日には、元慰安婦らを原告とする別の訴訟の判決の言い渡しが同地裁で予定されている。(ソウル=鈴木拓也)