いまさらという気がしないでもないが、日韓関係について考えてみた。韓国の中央地裁がきのう慰安婦による賠償金請求を認めない判決を言い渡した。「主権免除」という国際ルールに照らし賠償請求には訴訟根拠がないというのが理由だ。その前の日には日本政府に対する資産差し押さえ請求も棄却している。今年の1月には真逆の判決が同じ地裁で言い渡されている。朝日新聞によると日本政府は昨日の判決を前に、「敗訴する可能性が高いとみて、判決直後に、外務省の秋葉剛男事務次官が韓国の姜昌一(カンチャンイル)駐日大使を呼び、抗議する段取りまで整えていた」というから、この判決は予想外の出来事だったことは間違いない。同紙によると官邸幹部は「流れが変わってきた」と語っているという。

韓国の情報を絶えずウォッチしているわけではないが、折に触れて接する情報を見るたびに、文在寅(ムンジェイン)大統領の混乱ぶりが手に取るようにわかる気がする。昨日の裁判にも影響を及ぼしたと言われている文大統領の「両国間の公式合意」発言は、今年1月のことだ。朴槿恵時代に合意した慰安婦に関する日韓合意を初めて公式合意と認めた。それまでは、慰安婦の意見を取り入れていないとしてこの合意を反古にしようとしてきた。その大統領が急に態度を変えた。この時も何か変だな、そんな気がした。福島第一原発のトリチウムを含む処理水の海洋投棄を日本政府が決断した際には、「国際海洋裁判所に提訴する」と息巻いた。その後どういうわけか、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は「IAEAの基準に適合した手順に従っていると判断されるならば、あえて反対しない」と軌道修正した。この発言は米国のケリー特使と会談した後だったと思う。特使に何か言われたのではないか。

極め付けは日米首脳会談の前日、5月中に米韓首脳会談をワシントンで開催すると韓国側が一方的に発表したことだ。この時点では会談の具体的な日時もテーマも固まっていないと一部で報道された。まるで日本政府を意識したかのような発表ぶり。韓国の政権内部の事情はよくわからないが、日本を意識して繰り出してくる政策のほとんどが支離滅裂である。想像するに文大統領の対日政策は、日本ではなく韓国国内の世論を意識したものになっているのだろう。内政に関する失政から目を逸らすために日本を攻撃する。それが民意に通じればそれでよし。日本がどう受け止めようが関係ない。最近あまり見かけなくなったが、文大統領の政治心情は「積弊精算」。慰安婦や徴用工問題にこだわるあまり、一寸先も見えなくなっているのではないか。そんな気がした。