[東京 27日 ロイター] – 野村ホールディングス(HD)は米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引で3000億円超の損失を計上する。国内で成長が見込みにくい中、野村は海外に成長を求めてきた。アルケゴスのように規制の網にかからない顧客と取引するに当たり、リスク管理体制の強化が急務となる。
野村HDは27日、米国子会社と顧客との取引で2021年3月期に2457億円の損失を計上したと発表した。22年3月期は現時点で約5.7億ドル(約616億円)の損失計上を見込んでいる。この日開示した連結決算は、21年1ー3月期が1554億円の最終赤字(前年同期は345億円の赤字)。21年3月通期は純利益が前期比29%減の1531億円となった。
野村HDは3月末に損失の可能性を公表。相手先の名前を明らかにしてこなかったが、複数の関係者によると、アルケゴスとの取引で損失が出た。野村は、この顧客に対する請求額は市場価格に基づく試算で約20億ドルとしていた。
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの佐藤俊作シニア・クレジット・オフィサーは、損失計上で前期の通期業績が減益になったのはクレジットネガティブと指摘。顧客1社との取引で計3000億円超の損失が出ることにも懸念を示し、「3月末に公表した損失見積もりより実際の損失額が高いのは、野村のリスク集中の大きさを示している」とした。
野村HDによると、アルケゴス関連のポジションはすでに97%超解消した。既存の取引を点検した結果、同様の事例は見つからなかった。
野村HDはここ数年、海外事業、特に米国事業を強化してきた。奥田健太郎・グループ最高経営責任者(CEO)は会見で、事業戦略に「大きな変更はない」と強調。国内の顧客は米国市場に高い関心を持っていると説明した。
巨額損失を出したことによる経営責任については、「リスク管理とマネジメントの高度化により、より良いプラットフォームを作っていくことで責任を果たしていきたい」と語った。
当局の規制が緩いファミリーオフィスであるアルケゴスは、不透明で複雑なデリバティブ取引と高いレバレッジを活用していたと言われている。会見に同席した北村巧財務統括責任者(CFO)は「ファミリーオフィスが重要な顧客ということには全く変わりない。リスク管理を強化した上で、取引を継続していく」と述べた。
今後は外部の専門家を活用し、リスク管理の総合的な見直しを行う。
格付け会社S&Pグローバル・レーティングの松尾俊宏主席アナリストはロイターの取材に、「エクイティビジネスの収益をどう今後維持してくのかは問われるだろうし、予見できていないリスクに対しても耐性を備えていく必要がある」とした。
アルケゴスを巡っては、クレディ・スイスが44億フラン(約5190億円)、モルガン・スタンレーが9億1100万ドル(約1000億円)の損失を計上した。一方、ゴールドマン・サックスやウェルズ・ファーゴは業績への影響を軽微に抑えた。
野村HDは財務の健全性を示す連結普通株式等Tier1比率は3月末時点で15.7%と発表。「当社および子会社の今後の業務遂行や財務健全性への問題はない」としている。
(新田裕貴 取材協力:梅川崇 編集:田中志保、久保信博)