40年前、当時のレーガン米大統領とボルカー連邦準備制度理事会(FRB)議長は、同国経済の徹底的な再構築を主導した。経済の力の中心は政府から市場、労働者から資本家に移り、平等ではなく効率性、需要ではなく供給の促進に重点が置かれた。
金融政策が経済運営とインフレ抑制の主役になる一方で、財政政策の役割は後退し、その状況がこれまで続いてきた。しかし、バイデン大統領とパウエルFRB議長が今やろうとしているのは、正反対の方向への経済再構築だ。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の元エグゼクティブで、現在はジョージタウン大学で教えるポール・マカリー氏は、「経済システムと公共政策を取り巻く環境は当時、根本的な変化を遂げた。現在は基本的にまさに同じような状況を経験している」と語った。
米国が新型コロナウイルス禍からの回復を図るに当たり、バイデン大統領は経済における財政支出と税制の役割に再び重点を置きつつある。3月に成立した経済対策に続き、計4兆ドル(約435兆円)余りに上るインフラ計画と社会保障拡充計画を提案。法人税増税や富裕層の所得税およびキャピタルゲイン税の税率引き上げによる税収を一部財源とする。
パウエルFRB議長率いる金融当局の体制も一変した。ボルカー議長当時の政策の要だったインフレ抑制に代わり、日本を長年苦しめてきたようなデフレを回避することが重点課題となっている。
パウエル議長は事実上のゼロ金利政策と債券購入を続けることでバイデン政権の拡張路線を補強しており、経済に占める労働者の取り分を増やし、黒人など取り残されてきた層にも雇用改善の果実が広く行き渡ることを目指す政権の政策を後押ししている。
バイデン、パウエル両氏が推進するパラダイム転換には、景気過熱や望ましくないほどのインフレ高進という危険も伴う。ラトガース大学のマイケル・ボルド教授(経済史)は、米金融当局が政権の優先施策にあまりに肩入れし、ボルカー議長が獲得したインフレファイターの信認を失う恐れもあるとして、「インフレのリスクは非常に高まっている」と述べた。
時代背景
減税と規制緩和を柱とした40年前の「レーガノミクス」は、政府が肥大化して企業や経済活動のダイナミズムを抑制しているという情勢認識への反動だったが、バイデン政権の誕生は、資本主義の自由度が増す中で米国民の多くに恩恵をもたらすことがなかった状況を受けたものといえる。
ジョージタウン大のマカリー氏は、所得や富の格差は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で一段と状況が悪化する前から重要な政策課題となっていたとし、「束縛なき資本主義から民主主義が力を取り戻す方向にある」との見解を示した。
原題:Biden-Powell Duo Seeks to Define an Era Like Reagan-Volcker Did(抜粋)