「北朝鮮を含むいかなる誰も韓半島(朝鮮半島)で緊張を作る行為に対して反対する」
金与正(キム・ヨジョン)北朝鮮労働党副部長が対北朝鮮ビラ散布を「ゴミのようなやつらの妄動」と猛非難した談話を発表したことに対して韓国統一部が発表した公式立場だ。疑問が提起された表現は「北朝鮮を含むいかなる誰」という部分だ。立場文のタイトルは「金与正副部長の談話関連統一部の立場」だったが、緊張を作る行為の主体が北朝鮮以外にあるという風に表現されたためだ。対北ビラ散布市民団体を念頭に置いたものと解釈できる部分だった。自由北朝鮮運動連合は先月25~29日、非武装地帯(DMZ)に隣接した京畿道(キョンギド)と江原道(カンウォンド)一帯でビラなどを大型風船に入れて北朝鮮に飛ばしたと明らかにした。
実際、この日、統一部が発表した立場には対北ビラ散布について「警察が専門担当チームを構成して調査を進めている」という内容が含まれた。対北ビラ散布は現行法を違反した犯罪行為という点を強調するためのものとみられる。統一部はまた「南北関係発展法が境界地域の住民の命と安全保護に合致するように確かに履行される必要があるだろう」と話した。警察庁によると、キム・チャンニョン警察庁長官もこの日「対北ビラ散布に対して迅速かつ徹底した捜査を通じて厳正に処理せよ」と指示し、足早い対応に出た。
金副部長のこの日の談話には悪口に近い荒々しい表現が多数入った。脱北者を「汚いゴミ」と表現し、彼らの対北ビラ散布行為は「ゴミのようなやつらの妄動」と表現した。また「南朝鮮(韓国)当局は脱北したやつらの無分別な妄動をまた放置して阻止しなかった」として政府も直接非難した。それでも統一部は「北朝鮮を含むいかなる誰」という表現を使い、脱北者団体を非難した金副部長の談話に同調する立場を取っているように見えるという論議を自ら招いた。文在寅(ムン・ジェイン)政府が韓半島(朝鮮半島)平和プロセスの再稼働のために北朝鮮の度を越した暴言にも行き過ぎた低姿勢で一貫するのではないかという疑問が提起される理由でもある。
北朝鮮に対する低姿勢基調は北朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長の発言に関連した外交部の立場からも分かる。クォン局長はジョー・バイデン米国大統領が先月28日(現地時間)議会演説を通じて北朝鮮に対する「断固たる抑止」を強調したことに対して「大きなミスを犯した」と評価した。同時に「われわれはやむを得ずそれに相応した措置を講じなくてはならない」とし、武力挑発を示唆するようなメッセージを残した。
だが、米国大統領を直接狙ったクォン局長の発言にも外交部「わが政府は韓米両国の努力に対する北側の肯定的な呼応を期待している。政府は韓米間緊密な連携に基づいて、米朝対話の早期再開を通した韓半島の完全な非核化と恒久的な平和定着の達成のために引き続き取り組んでいる」という立場を明らかにした。それも配布用でなく、問い合わせをする報道機関に限って知らせるような消極的な対応だった。
このような慎重な立場表明は文在寅政府の任期末の核心課題である韓半島平和プロセスの再稼働構想に否定的な影響が及ばないようにするための苦肉の策に読まれる。特に、バイデン行政府の北朝鮮に対する政策の検討が完了して文在寅政府はこれを土台に北朝鮮を対話の場に引き出すために外交力を集中するという方針だ。任期を10カ月残した文在寅政府の立場では試みるたびに南北関係の進展に向けた最後のチャンスになるかもしれない。
それでも、このような状況を考慮しても緊張を作る北朝鮮の過激な発言にまともな対応ができない政府の態度は残念だ。南北対話のためには北朝鮮との葛藤を避けて条件をつけずに低姿勢で一貫するべきだという誤った対北朝鮮アプローチが公式化した先例のように残る可能性があるからだ。2019年光復節(独立記念日)の祝辞で文大統領の平和経済構想の提案に北朝鮮が「 ゆでた牛頭も仰天大笑(空を見て大きく笑う)する状況」と嘲弄した時も政府は「南北首脳間板門店(パンムンジョム)宣言と平壌(ピョンヤン)共同宣言合意の精神に合致しない」と大人しく言い聞かせたが、結局戻ってきたのはさらに深刻な暴言と嘲笑だけだった。北朝鮮の顔色をうかがうことに汲々とした態度はバイデン行政府の基調とも対比される。韓米連携を平和プロセス再稼働の動力にするためにはバイデン行政府が発表した新しい対北朝鮮政策の核心キーワードの一つが「断固とした態度」という点を忘れてはならない。