自民党の安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相、甘利明税調会長が議員連盟を新たに発足させた。安倍政権の中核を担った3氏は、今後想定される党総裁選や閣僚・党役員人事に向けて結束をアピールした格好。菅義偉首相の後ろ盾として存在感を増す二階俊博幹事長をけん制する狙いもありそうだ。
議連は半導体産業の再興が名目。甘利氏が会長を務め、安倍、麻生両氏は最高顧問に就任した。21日の設立総会には細田博之元幹事長や額賀福志郎元財務相、岸田文雄前政調会長を含む約60人が出席。各派の会長クラスが一堂に会するのは異例だ。一方で、二階派幹部の姿はなかった。
麻生氏は冒頭のあいさつで「3人そろえば政局って顔だが、間違いなく半導体の話をしに来た」と語った。
だが、党内では麻生氏の言葉を額面通りに受け取る向きは少ない。麻生派関係者は「安倍政権から変わらない連携を誇示する思惑だ。きな臭くなってきた」と強調。麻生、甘利両氏は総会前日の20日、派閥事務所で議連について協議した。他派閥からも「政局が始まった」との声が漏れる。
麻生氏らには、首相との信頼関係をてこに党運営を意のままにする二階氏への不満が強い。幹事長在任が歴代最長を更新し、8月に5年を迎える二階氏の交代を求める声が党内でくすぶることも念頭にあるとみられる。
二階派幹部は議連について「興味はない」と平静を装う。だが、同派ベテランは「政局絡みの感じがする。二階氏にしたら面白くないだろう」と不快感を示す。
二階氏側と甘利氏は、2019年参院選広島選挙区の大型買収事件で原資になったとの指摘がある1億5000万円の支出をめぐり、責任を押し付け合っている。安倍氏に近い世耕弘成参院幹事長は21日の記者会見で、「説明責任は党本部にある。党本部の責任者は幹事長だ」と語った。
党内からは対立激化への懸念が出ている。閣僚経験者は緊急事態宣言が発令中で、秋までに衆院選が控えることを踏まえ「そういう駆け引きは良くない」と指摘。竹下派の参院議員は「今、党内政局を起こしたら衆院選に負ける」と警告した。