政府は昨日、東京都をはじめ10都道府県に出されている20日までを期限とした緊急事態宣言を、沖縄県を除いて終了することを正式に決めた。その後、大半の自治体はまん延防止等重点措置に移行する。期限は7月11日まで。7月23日には2020東京オリンピック・パラリンピックが開幕する。日程的にはかなり窮屈だ。ここまでくるとさすがにオリパラ中止論を主張する声も少なくなってくる。代わってクローズアップしているのがオリパラ期間中の感染再拡大、いわゆるリバンド懸念だ。コロナ対策専門分科会の尾身茂会長は、専門家有志と共同でオリパラに向けた「尾身提言」を取りまとめた。今日中に政府や組織委員会に提出するようだ。読売新聞オンラインによると、「観客を入れる場合は通常のイベントより厳しい基準を適用するべきだ」との考え方が柱になっているらしい。

政府はすでに宣言解除後のイベントやスポーツの開催について、観客の上限を1万人にすることを決めている。この基準はオリパラには適用されていないとしているが、これを無視することもできないだろう。尾身提言のポイントは「それより低くしろ」という要求だ。本心は無観客だが、できるだけ人流を少なくするための次善の策、「命を預かる専門家」(尾身氏)の立場として、意地を通そうということか。感染防止に全身全霊を傾ける専門家の立場はよく理解できる。当然の提言だろう。政府はこの提言を無視するようだ。反応しないと言った方がいいかもしれない。そしてメディアは政府の対応を専門家無視と大々的に批判する。この1年半繰り返されてきたいつもの光景だ。世論調査をすればオリパラ中止論・延期論が8割近くを占めている。世論なるものに“追随”するしかないメディアにしてみれば、「当然の対応」ということになる。

コロナの感染防止をめぐって国内には大別すると2つの考え方の違いがある。一つは「ウィズコロナ」であり、もう一つは「ゼロコロナ」だ。前者は与党政治家や飲食店経営者、一部の学識経験者などに支持者が多い。後者の支持者は野党、感染症専門家、メディア、評論家、大半の学識経験者。もちろん支持の度合いには濃淡があり、双方の支持者とも意見が完全に一致しているわけではない。そんな中で両者ともこの1年半、決め手がないまま延々と収束しない議論を続けてきた。日本だけではない。世界中が似たり寄ったりだった。ここにワクチンという第3の道が登場した。欧米がワクチンに脱出口を見出したのだ。だが、ワクチン派の先頭を走っていた英国でデルタ株の感染が再び拡大しはじめた。決め手がないコロナ対策。第4派ならぬ“第4の道”が早くも必要になろうとしている。