[14日 ロイター] – 2020年の米国の薬物過剰摂取による死者が、過去最多の9万3331人に達した。米疾病対策センター(CDC)の国立衛生統計センター(NCHS)が14日発表した暫定値で明らかになったもので、19年の7万2151人から約30%増となる。
新型コロナウイルス感染の大流行(パンデミック)の中、感染抑制のためのロックダウン(都市封鎖)により治療が困難となったほか、合成オピオイドを配合したより強力な薬物が出回っていることなどが背景とみられている。
同センターによると、昨年の薬物中毒死では、オピオイドが原因のケースが全体の74.7%を占め、19年の5万0963人から6万9710人に増加した。
ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院の医療政策専門家、ジョシュア・M・シャーフステイン博士は、「コロナ禍では様々な薬物対応プログラムが運用できなくなった。路上レベルでの接触が極めて困難になり、人々が非常に孤立した」と分析した。
<接触規制で更生の支援使えず>
カリフォルニア州在住のアーマン・マッデラさん(24)は、薬物依存から回復していたが、コロナ禍の中で再発、自分も死亡していた可能性もあると振り返る。使用した合成オピオイド系のフェンタニルは、モルヒネやヘロインの80─100倍の強さだという。
マッデラさんは、「いまは大量のフェンタニルが出回っており、使用しただけでごく簡単に死んでしまう。以前は多くの人が依存症を再発しても更正できていたが、いまは違う」と語る。
昨年10月に2度目の更正施設入所に踏み切ったマッデラさんは、「実際、不運にも薬物過剰摂取で亡くなった人を個人的にたくさん知っている」と明かした。
薬物中毒死はコロナ禍発生の数カ月前から既に増加していたが、最新の統計でコロナ禍によって増加が加速している状況が明らかになっている。
社会的距離(ソーシャルディスタンス)が求められる中、注射針の使い回しを避けるための「注射針交換」プログラム、オピオイド代替治療や解毒剤のナルカンを投与できる施設などへのアクセスが抑制され、多くの常用者が孤独死しているという。さらに、ステイホームの指示で薬物依存者をサポートするグループや治療師と接触しにくくなったことも、中毒死が増加する一因となっている。
マッデラさんの治療にあたった施設のプログラム責任者は、孤立は不安やうつの原因となることが知られていると指摘。こうした感情が薬物使用を誘因する可能性があると述べた。
<大半の州で死亡率が増加>
薬物自体の致死性も高まっている。米国立衛生研究所(NIH)内、国立薬物乱用研究所NIDA)のノラ・ボルコウ所長は、薬物供給者は効果を高めるため、フェンタニルをより頻繁にコカインやメタンフェタミンと混ぜるようになったと指摘。「現在入手できる薬物の種類は危険性が格段に増している」と述べた。
コロナ禍の国境閉鎖は期待に反してフェンタニル流入阻止につながっていないどころか、流入は加速している。
NCHS死亡率統計部門の責任者、ボブ・アンダーソン氏は、「中毒死増加の主因は合成オピオイド、主にはフェンタニルであることが分かっている」と指摘。全米の大半の州でこの傾向が見られ、薬物過剰接種による死亡が最も増加したのはバーモント州の57.6%だったと述べた。さらに増加幅はケンタッキー州の54%、サウスカロライナ州の52%、ウェストバージニア州の約50%、カリフォルニア州の46%などとなっている。
シャーフステイン博士は、1日当たりで見ると、現在は新型コロナより薬物過剰摂取による死亡のほうが多くなっていると指摘。「これは別種の危機であり、さほど速やかに終息することはない」と述べた。
(Julie Steenhuysen記者、Daniel Trotta記者)