[東京 23日 ロイター] – 新型コロナウイルス禍で1年延期された東京五輪は23日、国内外の感染拡大に歯止めがかからないまま開幕を迎えた。異例の無観客開催が決まり、開会式もフィールドを取り囲むスタンドに人影はまばら。差別的な言動などで大会関係者が相次ぎ辞任し、五輪憲章が掲げる「多様性」に黄色信号が灯る中、ハイチ系米国人の父と日本人の母を持つ女子テニスの大坂なおみ選手が聖火台に点火した。

<天皇陛下「記念して」と開会宣言>

開会式は午後8時、東京・新宿の国立競技場で始まった。約6万8000人を受け入れることができる会場だが、式典を見届けたのは国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会などの運営関係者など約950人に絞られた。8万近い観客席が埋まった2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会の開会式から一変した。

式典では天皇陛下が開会を宣言。57年前の東京大会で昭和天皇が述べられた「オリンピアードを祝う」ではなく、「オリンピアードを記念して」との表現を使われた。歌手のMISIAさんが国家を歌い、市川海老蔵さんらが歌舞伎を演じた。しかし、観客席が閑散とする中、スタジアムが大きな拍手や歓声に包まれることはなく、会場外で行われていた五輪に反対するデモの声がときおり響いた。

各国・地域の選手団の入場行進は、五輪発祥の地であるギリシアを先頭に、難民選手団、その後は日本語の五十音順に代表団が続いた。今大会から多くのチームが旗手を1人から2人に増やし、男女ペアにした。ジェンダー平等を訴えるため、IOCが規定を変更した。最後に入場した日本は男子バスケットボールの八村塁、女子レスリングの須崎優衣両選手が旗手を務めた。

<東北の子どもたちから聖火>

華やかな演出が常に注目される五輪開会式だが、大会組織委は21日、過去にコントの中でユダヤ人大量虐殺を揶揄(やゆ)したとして、演出調整役の小林賢太郎氏を解任。式の直前に水を差す形となった。

東京五輪の開会式を巡っては、これまでにも制作に携わる関係者が複数辞任している。今年4月には、女性タレントの容姿を蔑視する演出を提案したとして統括責任者の佐々木宏氏が辞任。7月19日には、楽曲担当の小山田圭吾氏が過去に障がい者の同級生へのいじめを雑誌インタビューで語ったことが問題視されて辞めた。

13年に開催が決まって以降、東京五輪・パラリンピックは混乱が続いた。国立競技場の建て替え計画は費用が膨らみすぎるとして当初の設計案が撤回され、大会エンブレムは盗作疑惑が浮上してデザインをやり直した。また今年に入り、組織委会長だった森喜朗氏が女性蔑視発言で辞任した。

その中で最終聖火ランナーに選ばれたのは、テニスの4大大会を4度制した大坂選手だった。宮城県・福島県・岩手県の東北3県の子どもたちから聖火を受け取った大坂選手は、富士山と太陽を表現した聖火台に火を灯した。

57年ぶりに東京で開かれる今回の夏季大会には、200以上の国と地域から約1万1000人の選手が参加する。新たに加わった空手やスポーツクライミングなど、過去最多の33競技が行われる。

(久保信博、橋本俊樹 編集:伊賀大記)