[ロンドン 12日 ロイター] – 新型コロナウイルスのパンデミックを背景に各国の借金が膨らんだところで、今度は国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が警鐘を鳴らした温暖化の進行に対応するためさらに債務負担が増大し、世界中でデフォルト(債務不履行)が発生する恐れが出てきた。
各国は温暖化がもたらす危機を回避しようと二酸化炭素排出量削減に取り組むことを約束している。しかしこうした措置には費用がかかり、世界の債務水準は一段と高まる公算が大きい。資産運用会社ジャナス・ヘンダーソンの推計では、既に昨年末時点で債務総額は62兆5000億ドル(約6900兆円)に達したもようだ。
<格下げの可能性、日本にも懸念>
相次ぐ洪水や山火事が経済に及ぼす被害額の試算は非常にばらつきがあるものの、バンク・オブ・アメリカが今年まとめた報告書には2100年までに54兆-69兆ドルに上るとの見通しが示された。世界全体の経済生産が約80兆ドルであることを踏まえると、被害額は脅威的な規模といえる。
指数算出会社FTSEラッセルはこのほど公表した調査報告で、金融市場への影響は10年もしないうちに顕在化する可能性があると注意を促す。調査報告の共同執筆者でシニア・サステナブル投資マネジャーのジュリアン・ムサビ氏は、最初の気候変動絡みの格下げが間もなく幾つかの国を襲うことになると付け加えた。
調査報告が提示した最悪のシナリオに基づくと、マレーシアや南アフリカ、メキシコといった新興国に加えてイタリアなど比較的経済が豊かな国でさえ、2050年までにデフォルトに陥るかもしれない。また気候変動対策の初動が遅いオーストラリア、ポーランド、日本、イスラエルなどもデフォルトや格下げに見舞われるリスクがあるという。
これらの調査によると、海面上昇や干ばつに対して本来的により脆弱なのはもちろん途上国・新興国だが、先進国といえども気候変動の悪影響から逃れることはできない。
カントリーリスク・ドット・アイオーのチーフエコノミストで、以前にS&Pグローバルのソブリン格付け責任者だったモリッツ・クラマー氏は、気候変動とその影響に関してすぐにバルバドス、フィジー、モルディブなどが話題に上るとしつつ、「私が驚いたのは格付けが比較的高く、より裕福な国にその影響が波及する点だ」と述べた。
ケンブリッジなど複数の大学が行った別の調査は、S&Pグローバルとムーディーズ、フィッチによる格付け対象の約半分に当たる63カ国が、30年までに気候変動のせいで格下げされてもおかしくないと結論づけている。
この調査で2100年までの格下げが6段階と最も痛手を受けると見込まれたのは中国、チリ、マレーシア、メキシコで、米国とドイツ、カナダ、オーストラリア、インド、ペルーも4段階程度は引き下げられる可能性がある。
そうした格下げに伴う借り入れコスト上昇により、2100年までに各国合計の債務返済額は1370億-2050億ドル増えると見積もられた。
<新興国、際立つ脆弱性>
先進国は気候変動対策の支出を拡大。ドイツは最近の洪水被害を受け、300億ユーロの復興基金を創設したほか、シンガポールは今後100年の海面上昇から国を守るために720億ドル相当の予算を計上している。
一方、既にコロナ禍が痛手となっている新興国の場合、気候危機がもたらす重圧は一層大きくなるだろう。
国際通貨基金(IMF)は、「ノートルダム大学グローバル適応力指数」という指標を使って、気候変動に対する脆弱性が10ポイント高まると、新興国・途上国の長期国債スプレッドは150ベーシスポイント(bp)強も跳ね上がると警告する。世界の全ての国のスプレッド上昇幅の平均は30bpだ。
新興国・途上国の気候変動適応にかかるコストは30年に最大3000億ドル、50年には5000億ドルまで増大するとみられている。
国際金融協会(IIF)のデータでは、新興国の債務の対国内総生産(GDP)比は約60%と、米国と英国の100%前後や日本の200%に比べるとなお小さい。それでもコロナ禍前のおよそ52%から上がったという事実はとりわけ不安を誘う。欧米や日本では中央銀行が事実上、政府借り入れを引き受けているが、最終的に必ず返済が必要な新興国の場合はそうした手段は取れない。
IIFの国際金融資本市場ディレクター、ソンジャ・ギブス氏は「高水準の債務と格付けの重要性を踏まえると、一体どうやって必要な資金調達が可能になるのだろうか」と疑問を投げ掛けた。
(Dhara Ranasinghe記者、Karin Strohecker記者)