アフガニスタンの首都カブール。国際空港で発生したISIS-Kによる自爆テロで米軍をはじめ多くのアフガン人が犠牲になった。幸い日本人は含まれていなかったが、このテロで自衛隊は事前に想定していたい500人程度を輸送するという支援・救援活動がまったくできなくなった。テロ勃発後自衛機で退避したのは日本人1人だけ。それ以前に空輸した人を含めれば、アフガン人のアシスタントを含め10数名になるとの報道もある。人数はともかくとして、今回のケースで明らかになったのは、危険地帯で自衛隊はほとんど何の役にも立たないということだ。自衛隊がサボタージュしたわけではない。自衛隊は危険地帯での活動を法律で禁止されているのだ。自衛隊輸送機のミッションは、危険地帯にいる日本人や協力者の救出だ。そのミッションは法律によって禁止されている。自衛隊員のジレンマはいかばかりか……。

ISIS-Kによる自爆テロが発生したのは26日。自衛隊は隣国パキスタンの首都イスラマバードにC2輸送機2機を派遣、カブール空港から退避希望者を随時空輸する計画を練っていた。このうちの輸送機1機がカブール空港に到着したのが25日。空輸の準備は整ったが、国際機関で働く日本人や大使館の現地スタッフら退避を希望する人たちが空港に到着せず、無為に時間が流れていく。事態打開を図るためバス20台をチャーターして空港に向かうが、到着前に自爆テロが発生、空港周辺に近づけなくなる。空港内部は米軍が支配・コントロールしているが、空港への出入り口はタリバンが支配。バスは空港入り口の検問を突破できなかったようだ。空港で待機していた自衛隊並びにC2輸送機は、手をこまねいて事態の推移を見守るしか手はなかった。最終的には共同通信支局に勤務する日本人のアシスタント1人を乗せ、イスラマバードに飛んだ。どうやらこんな顛末のようだ。

安倍内閣の当時、安全保障関連法の改正によって自衛隊機の海外での救助活動が可能になった。だが、そこには前提条件がついていた。「派遣先が安全であること」。カブールの空港内は米軍が支配しており「安全」は確保されている。だが、一歩外に出るとそこはタリバンが支配する「危険地帯」。自衛隊員は空港の外に出ることができず、退避者が自力で空港にたどり着くのを待つだけ。「危険地帯」にいる日本人を救出する活動が、自衛隊にとって「安全ではない」という理由で阻止されたのだ。なんという矛盾だろうか。日本の安全保障につきまとうえも言われぬジレンマである。フランスもドイツもイギリスもトルコも、もっといえば韓国も、数百人から数万人の同胞の救援・退避を実行している。軍国主義、被爆国、敗戦。過去の忌まわしい記憶があるとはいえ、日本の安全保障関連法は現在の危機に対応できていない、そんな気がする。