【北京時事】中国政府が、人気女優の巨額脱税を摘発したり、アイドル養成番組の放送を禁じたりし、芸能界に対する締め付けを一斉に強化している。拡大した経済格差を是正する「共同富裕」が習近平指導部の重要な政治目標となる中、富の集まる華やかなエンターテインメント業界が標的となっている。

「中国共産党員になりたい」 香港俳優ジャッキー・チェン氏

 上海市の税務当局は8月27日、テレビドラマなどで活躍する女優の鄭爽さん(30)が出演料を少なく見せ掛けて脱税したとして、総額2億9900万元(約51億円)の追徴課税・罰金を科すと発表した。鄭さんは直ちに声明を出し「とても後悔している。処罰を受け入れる」と謝罪した。

 同じ日には、国家インターネット情報弁公室が、ネット各社に芸能人の人気ランキングを削除するよう要求。アイドルの順位を上げようとファンが金銭をつぎ込むなど、過熱する「推し」行為を許さない姿勢を鮮明にした。

 さらに今月2日には、国家放送総局がテレビ番組やネット動画の低俗化を許さないとして、アイドル養成番組や女装の美少年コンテストの放送禁止を通達。番組には「中華の優秀な伝統文化や社会主義の先進文化を発揚する」ことを要求した。

 一連の対応の発端は、8月17日に習氏が主催した共産党の会議にありそうだ。会議では人民全体が豊かになる「共同富裕」の実現に向け、「収入分配の秩序を正し、違法所得を断固取り締まる」ことなどを確認した。来秋の党大会で異例の3期目入りが確実視される習氏は、昨年達成を宣言した「脱貧困」に代わる新たな目標として「共同富裕」をアピールする構えで、多くのセレブを生み出してきた芸能界への逆風はやみそうにない。