米南部では新型コロナウイルスのデルタ変異株の急速な感染拡大で病院が対応に追われている。フロリダ州やルイジアナ州ではパンデミック(世界的大流行)の最悪期だった冬の時期よりも死者数が多くなり、医療用酸素が不足している地域もある。
こうした厳しい現実は、最も健康リスクの高い人々へのワクチン接種が十分に行われていないことで拍車がかかった公算が大きい。
デルタ変異株がここまで急速に広がったのは、新型コロナ感染症は無力化されたとの幻想が広がり、警戒が緩んだことが背景にありそうだ。全米規模でマスクの着用はピーク時の3分の1に減った。レストランや店舗への客足はパンデミック前の水準に近づき、大規模なスポーツイベントや音楽フェスティバルが復活した。
新型コロナによる死者が1日当たり1000人を超え、ウイルスが流行しやすい冬季に向かう中、公衆衛生の専門家はこうしたウイルス対策の緩和について、一部を考え直す必要があると語っている。
バンダービルト大学のウィリアム・シャフナー教授(感染症学)は「デルタの感染力は過小評価されていた」と指摘。「活動再開への強い願望があったが、それは良識に反していたと思う」と述べた。
8月初旬までの数週間、英国でのデルタ変異株の急拡大を前にしても米国の一部では安心感があった。英国では感染者数は急増したものの、死亡者数は相対的に少なく、米国でも同様の傾向になるとの楽観があったからだ。しかし、デルタ変異株は両国間の重要な違いを浮き彫りにした。米国では、入院や死亡のリスクが最も高い高齢者へのワクチン接種が、英国に比べて大幅に遅れていた。
米国では65歳以上の約18%がまだワクチン接種を完了していない。英国でこの数字は約5%にとどまる。ペンシルベニア大学のジェフリー・モリス教授(生物統計学)は「これは大きな違いだ」と指摘。「ワクチン未接種者の割合が4倍になれば、もっと多くの死者が出ることになる」と語った。
デルタ変異株の感染急増時期は英国より遅かった米国だが、6月上旬以降の人口当たりの死亡者数ではすでに英国の2倍となっている。
原題:Overwhelmed Morgues Belie U.S. Illusion of a Defanged Pandemic(抜粋)