[フランクフルト 9日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は9日の理事会で、新型コロナ対応の債券買い入れプログラムの買い入れ規模縮小を決定し、緊急措置の解除に向けた一歩を踏み出した。
現行の1兆8500億ユーロ規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い入れ規模を、前2四半期の月間800億ユーロから小幅縮小すると発表した。
声明で理事会は、良好な金融環境を維持しつつ、資産買い入れペースを「適度に」縮小させることに合意したと表明。今後3カ月間の買い入れ規模は示されなかったが、関係筋3人はロイターに対し、ECBが月間の買い入れ目標を600億─700億ユーロに設定したと明らかにした。
一方、市場や金融環境次第で必要と判断すれば、再び景気刺激策を実施するとの姿勢を維持した。
ラガルド総裁は記者会見で「良好な金融環境を実現するという目標達成に向け、買い入れペース調整を全会一致で決定した。これに続く措置については、討議されなかった」と指摘。
今回の決定について「テーパリングではない」と強調。資産買い入れペースの縮小に着手しても、「仕事は終わっていない。われわれはなお(インフレを)2%とすることを目指している」と述べた。
労働市場の状況には楽観的な見方を示しつつも、域内経済については「明らかに回復しているが、回復のスピードは引き続き、新型コロナウイルス感染の経過やワクチン接種の進捗状況に左右される」と強調。「われわれはまだ危機を脱しておらず、ゴルフで言えばグリーンにはいないということだ」と述べた。
ECBは今年の域内成長率見通しを従来の4.6%から5%に上方修正する一方、2022年見通しは4.6%と前回の4.7%から小幅に引き下げた。23年見通しは2.1%を維持した。
インフレ率見通しは21年が2.2%、22年が1.7%、23年が1.5%と、それぞれ従来の1.9%、1.5%、1.4%から引き上げた。
ラガルド総裁は、ユーロ圏は「第3・四半期も力強い成長が見込まれる」とした上で、年末には経済活動がパンデミック前の水準に達すると想定。一方で、足元のインフレ高進は「おおむね一時的」とし、中期的なインフレ率は目標の2%を大きく下回るとした。
また、政策当局者は引き続き、賃金への圧力は緩やかで現行の供給上のボトルネックは緩和され始めると考えているとした。
政策金利はマイナス0.5%で据え置いた。PEPPは引き続き来年3月に終了する予定。通常の資産買い入れプログラム(APP)による買い入れ額は月額200億ユーロを維持した。
今回の理事会で緊急支援策の明確な終了時期が示されなかったことで、12月の理事会の決定が重要性を増す。
インフレが依然低水準で推移する中、ECBは良好な金融環境の維持に向け刺激策の軸足をAPPに戻し、APPを通じた買い入れの拡大やルールの柔軟化が求められるが、ECB内の保守派メンバーからは反対の声が上がる可能性がある。AXAグループのチーフエコノミスト、ジレス・モエク氏は「ラガルド総裁が審議を開始するには理事会内の溝はあまりにも大きい」と述べた。
<ECBの成長率とインフレ率の見通し(カッコ内は6月時点の予想)>
2021 2022 2023
GDP growth 5.0% (4.6%) 4.6% (4.7%) 2.1 (2.1%)
Inflation 2.2% (1.9%) 1.7% (1.5%) 1.5 (1.4%)