アメリカ同時多発テロ事件から11日で20年となります。
テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルの跡地などではバイデン大統領も出席して犠牲者を悼む追悼式典が開かれます。
2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件では、ハイジャックされた4機の旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルなどに激突し、日本人24人を含む合わせて2977人が犠牲となりました。
事件をきっかけに「テロとの戦い」を掲げ、アフガニスタンで開始した軍事作戦についてバイデン政権は8月、アメリカに対するテロの脅威を取り除くという目的は達成されたなどとして、駐留に終止符を打ち軍を撤退させました。
しかし、世界各地でテロの脅威は依然として残っていて、アメリカでは20年に及ぶ「テロとの戦い」をどう評価すべきか、意見は分かれています。
テロで崩壊した世界貿易センタービルの跡地では日本時間の11日夜、遺族らが出席して犠牲者を悼む追悼式典が開かれます。
また、ハイジャックされた旅客機が墜落し乗客・乗員全員が死亡した東部ペンシルベニア州、シャンクスビルと旅客機が激突し乗客や職員らが犠牲となった首都ワシントン郊外にある国防総省でも追悼式典が開かれる予定で、バイデン大統領も3か所の現場を訪れ、テロ事件の犠牲者に哀悼の意を示すことにしています。
増え続けるテロ
アメリカのメリーランド大学のデータベースをもとに国際的なシンクタンク、IEP=経済平和研究所が作成した報告書によりますと2010年から2019年までの10年間に、テロにより命を落とした人は世界で18万人余りと、2000年から2009年までの10年間の2倍以上に上っています。
報告書によりますと2000年から10年間は、テロの大半は戦場となったイラクとアフガニスタンで集中して起きています。
2009年までの10年間で、テロにより死亡した人は7万1862人なのに対してその後の10年間でテロで死亡した人は18万2060人と、2.5倍に上っていてデータを集め始めた1970年以降、直近の10年間がテロによる犠牲者がもっとも多くなっています。
テロ被害のピークは2014年で、過激派組織IS=イスラミックステートが活動を活発化させた時期と重なります。
ISは、2015年頃を境にイラクやシリアで支配地域を失うと、それまでの中東に限定された組織から、イデオロギーでつながったより広範な組織へと変貌をとげ、アフリカのサハラ砂漠南側のサヘル地域、南西アジア、インド太平洋、ロシアなど世界各地に地域組織が生まれます。
8月、アフガニスタンの首都カブールの空港近くで自爆テロを引き起こしたとされるのも、ISの地域組織でした。
ISがからんだテロの被害者は欧米では、フランスが最も多く、255人が死亡しています。
一方、アメリカでは2014年以降、77人が死亡していて、いずれもが単独犯によるものでした。
また、欧米では近年、イスラム過激派によるテロは減少する傾向にある一方で、「極右」によるテロの増加が顕著で、極右によるテロの犠牲者は2019年、89人にのぼり、11人だった2014年の8倍に増えました。
報告書によりますと、欧米では、極右テロが、テロ事件に占める割合が増え続けていて、2019年には46%に上っていて、極右テロは、政治不安や政治の両極化、ポピュリズム的な政治の動きとの連動性を増していると警鐘を鳴らしています。
一方、アメリカ外交問題評議会の報告書によりますと、世界で、2002年から2018年のあいだに、死者が出たテロ事件の53%を4つのテロ組織が引き起こしています。
最も死者が多かったのが、アフガニスタンの武装勢力「タリバン」によるテロ事件の2万9900人、次いで「IS=イスラミックステート」が2万9438人、アフリカのナイジェリアを中心に活動するイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が1万8641人、ソマリアに拠点を置くイスラム過激派組織「アッシャバーブ」が6237人となっています。
元米軍現地司令官「長期に渡る対策必要」
同時多発テロ事件のあと、イラクやアフガニスタンでアメリカ軍の現地司令官を務めたペトレアス氏は、NHKのインタビューに対し「この20年間、アメリカでイスラム過激派による大規模な攻撃は起きていない」として「テロとの戦い」は成果をあげたという認識を示す一方、テロの脅威は今後も続くとして、世代を越えた長期に渡る対策の必要性を訴えました。
ペトレアス氏は、20年前の同時多発テロ事件のあと、イラクとアフガニスタンの2つの戦争で現地司令官を務め、アフガニスタンでは、15万人規模のアメリカ軍と国際部隊を率いました。
インタビューのなかでペトレアス氏は、20年にわたった「テロとの戦い」に成果はあったと考えるかという質問に対し、「過去20年間、同時多発テロのような攻撃は起きていないし、アメリカの地においてイスラム過激派による大規模な攻撃も起きていない」と強調しました。
そして「国際テロ組織アルカイダが、活動の聖域を築けない状態をつくりあげたことに加え、対テロ作戦によって、同時多発テロ事件の首謀者のオサマ・ビンラディンに裁きを下した」とも述べ、みずからが現地司令官を務めた「テロとの戦い」は重要な成果をあげたという認識を示しました。
一方で、ペトレアス氏は「過激派の脅威は、場所を変えて生き続けることに疑いの余地はない。これは深刻な問題であり、10年の単位、さらには幾世代にもまたがる戦いとなる。常に圧力をかけ、監視していくことが大切だ」と述べて、世界からテロを無くしていくためには、世代を越えた対策が必要だと訴えました。
また、バイデン政権が、混乱が広がるなかアフガニスタンから軍の撤退を進めたことについてペトレアス氏は「アメリカの信頼性に、少なからぬ影響を与えたことは疑いの余地がない」と指摘しました。
そのうえで台湾などで、有事の際に最大の後ろ盾となるアメリカの信頼性を疑問視する論調が出ていることについて「大切なのは、アフガニスタンはインド太平洋地域には属さないということを明確に示していくことだ」と述べました。
また、武装勢力タリバンの今後の出方についてペトレアス氏は「日本はアフガニスタンでの取り組みで、常にアメリカに次ぐ、多額の支援をしてきた国でありタリバンは日米の支援なしには財政が立ちゆかなくなるということをすぐに悟るはずだ」と述べ、タリバンが、いずれ日本やアメリカの支援を必要とすることになるという見方を示しました。
アフガニスタンの市民は
アメリカの同時多発テロ事件をきっかけにその後20年にわたってアメリカの軍事作戦が行われたアフガニスタンの市民からは、8月、武装勢力タリバンが再び権力を掌握するなかで撤退したアメリカ軍に対して厳しい声が聞かれました。
このうち、首都カブールの男性は「アフガニスタンは同時多発テロ事件の悲劇を受けた戦略の舞台となった。アフガニスタンの人たちはこの状況に苦しみ、いま再び困難に直面することになった」と話していました。
また、別の男性は「20年もの間、アメリカ軍がアフガニスタンにいたが、私たちにもたらしたものは何もなかった。利益を得たのは一握りの人たちだけで貧しい人が得たものは何もなかった」と話していました。
さらに、別の男性は「この20年、アフガニスタンには安全も安定もなかった。あったのはテロや殺りくだけだった。タリバンに求めることは国の安全だ。国際社会を脅かすテロリストをこの国に入れさせないでほしい」と話していました。
アジア各国 テロ組織の活動を警戒
2001年の同時多発テロ事件の後、アメリカは「テロとの戦い」を掲げて軍事作戦を展開しましたが、その結果、反米感情が高まり、テロ組織がアジア各国にも広がりました。
事件から20年がたち、武装勢力タリバンが復権したことで、アジアでテロ組織の活動が活発になるのではないかと、各国は警戒を強めています。
アジアでは、フィリピン南部のミンダナオ島などの島々で、過激派組織IS=イスラミックステートに忠誠を誓ったとされるイスラム過激派組織「アブサヤフ」などが活動を続けています。
4年前、フィリピン軍との間で5か月にもおよぶ激しい戦闘が行われた結果、弱体化したものの、軍の掃討作戦から逃れた一部が、周辺の地域で散発的に自爆テロなどを起こしています。
また「アブサヤフ」の主要メンバーの1人が、アフガニスタンに渡ったという情報もあり、フィリピンの治安当局は警戒を強めています。
そしてインドネシアでは、アフガニスタンで訓練を受けた戦闘員も加わった、国際テロ組織アルカイダ系の組織やISの支持者らがテロを繰り返しています。
警察の対テロ特殊部隊は、こうした勢力の活動が活発化するおそれがあるとして、同時多発テロ事件の後、インドネシア各地で大規模なテロを繰り返した組織「ジェマ・イスラミア」やISを支持する地元組織のメンバーら53人を、先月(8月)拘束しました。
さらにインドでは、2008年、最大の商業都市ムンバイで、タリバンと連携していた隣国パキスタンの過激派組織による、同時テロ事件が起き、日本人1人を含む166人が死亡しました。
この事件以降、大型の商業施設やホテルなどの入り口には、金属探知機やX線の検査装置が設けられるようになり、タリバンの復権によって過激派が再び勢いづくおそれがあるとして警戒が続いています。