【ブリュッセル、パリ時事】米英とオーストラリアが15日発表したインド太平洋地域での新たな安全保障の枠組みが、フランスを中心に欧州連合(EU)に波紋を広げている。EUが地域への関与を強めようとする矢先に同盟国から「蚊帳の外」に置かれた衝撃は大きく、米国への不信感が一段と深まっている。

バイデン政権「トランプ氏のよう」 米英豪枠組みに怒り―仏外相

 「後ろから刺された。一方的で容赦のない決定はトランプ前米大統領とそっくりだ」。ルドリアン仏外相は16日、仏ラジオで「裏切り」だと怒りをあらわにした。新枠組みでは米英が豪州の潜水艦建造に協力することになり、仏豪が2016年に合意した潜水艦の共同開発計画が破棄されたためだ。仏政府は17日、駐米、駐豪両大使の召還を発表し亀裂は鮮明となった。

 新枠組みはEUにも「寝耳に水」だった。ボレル外交安全保障上級代表(外相)は16日の記者会見で「知らされておらず、協議に加われなかったのは残念だ」と認めた。特にボレル氏が同日詳細を発表したEU初のインド太平洋戦略に大きな影を落とした。

 同戦略は対中国けん制を念頭に地域の経済・安全保障への関わりを強める内容で、フランスやドイツが主導したものだ。仏モンテーニュ研究所のテルトレ上級研究員は「対中国で協調し欧州のインド太平洋へのさらなる関与を得るというバイデン米政権の意向を今後どこまで真に受けられるだろうか」と指摘。一貫性を欠く米国の安保戦略に振り回される事態を危惧する。

 折しも欧州では、アフガニスタンからの市民らの退避をめぐる混乱を受け、駐留米軍撤収を強行した米国への不満や、軍事面での米国依存への懸念が拡大。バイデン政権でもトランプ政権時代からの自国中心主義の流れは不変とみて、マクロン仏大統領が唱えてきた欧州の「戦略的自立」論が勢いを増している。ボレル氏は「今回の出来事は、自ら主導権を握らなければならないと欧州の目を覚まさせるものだ」と強調した。

 ただ、インド太平洋戦略では日韓やインドと共に豪州を重要な連携相手と位置付けていただけにEUは影響力の弱さをいきなり露呈。加盟国間には対米、対中政策での温度差も残っており、「自立」への前途は多難だ。