オーストラリアのスコット・モリソン首相は19日、アメリカとイギリスと結んだ安全保障の新たな枠組み「AUKUS(オーカス)」のために、フランスとの原子力潜水艦建造契約を破棄した決定を擁護した。
モリソン首相は、この枠組みについてうそをついていたというフランスの批判に反発。フランスは契約破棄の準備に気づいていたはずだと述べた。
モリソン首相は、フランスの落胆は理解できると発言。その上で、オーストラリアの立場は常に明確にしてきたと述べた。
また、フランス政府は「我々が抱える深刻で根深い懸念について、あらかじめ知っていたはずだ」と強調した。
「究極的には、これはオーストラリアの納税者に大きな負担を強いる中で、進水の暁には必要な業務をこなす潜水艦をどこで建造するのかという決定、最高の情報と防衛に関する助言に基づいた戦略的判断についての決定だ」
フランスのジャン=イヴ・ルドリアン外相は18日、AUKUSが同盟関係に「深刻な危機をもたらす」と非難。政府はすでに、アメリカとオーストラリアに駐在している大使を呼び戻している。
AUKUSでは、アメリカからオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術が提供される。領有権争いがある南シナ海における、中国の影響力に対抗することが狙いとみられている。
これにより、フランスが2016年にオーストラリアと結んだ原潜12隻の製造契約が破棄されることが決まった。契約額は500億豪ドル(約4兆円)規模だった。
フランス政府は、この枠組みの構築を発表の数時間前に知ったという。
「我々は説明を求めている」
この前日には、ルドリアン仏外相がフランスのテレビに登場し、アメリカとオーストラリアの動きは「二枚舌で、信頼を裏切り、侮辱的」だと非難していた。
また、アメリカとオーストラリアに駐在していた大使らは、「状況を再評価」するために呼び戻されていると述べた一方、3カ国目のイギリスは「余計な存在」なので、大使を呼び戻す「必要はない」と話した。
今週行われた内閣改造で英外相に就任したばかりのリズ・トラス氏は19日、日曜紙サンデー・テレグラフでAUKUSを擁護。イギリスが利益の防衛に「現実的に」取り組む準備ができている現れだと述べた。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、数日以内にフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談する予定。
フランス政府のガブリエル・アッタル政府報道官は、「我々は説明を求めている」と述べている。
AUKUSにより、オーストラリアは世界で7番目の原潜保有国となる。また、3カ国はサイバーや人工知能(AI)、水中防衛の分野などでも技術を共有する。
一方、中国はAUKUSについて、3カ国は「時代遅れの冷戦思考」をいまだに持っていると批判した。
ぎこちない外交、高まる感情、スパイのような秘密主義……AUKUS騒ぎにはこのすべてが含まれている。
しかし、恥辱を受けたフランスの閣僚たちが声高な非難を口にする間にも、基本的な真実が浮かび上がっている。西側諸国は、中国にどう対応すべきか、決めかねているのだ。
アメリカはイギリスとオーストラリアと共に、この安全保障上の課題に立ち向かおうとしている。一方、一部の欧州諸国をはじめとする諸外国は、中国に対してそこまで好戦的ではなく、中国との経済協力と、中国政府との戦略的競争を、引き続き区別して別扱いしようとしている。
フランスは、オーストラリアによる契約破棄に加え、アメリカとイギリスからの信頼欠如に憤っている。
この事態にフランスの新聞各紙は、大使召還を超える報復措置について取りざたし始めており、北大西洋条約機構(NATO)関連の対応の声もあがっている。これを機についに欧州は、戦略的自治の拡大について合意する気になるかもしれないという、そうした憶測も出ている。
だが、真実はもっと単純だ。西側諸国がインド太平洋での利益を守りたければ、フランスをはじめとする欧州諸国は、アメリカを中心とする英語圏の同盟国と、同じ側に立たなくてはならない。だが現時点では、両者は同じ土俵にすら立てていない。
(英語記事 Australia denies lying to France in submarine deal)