米国債券市場で国債利回り(金利)の上昇が止まらない。22日に開かれた米公開市場委員会(FOMC)でパウエル議長が、年内にテーパリング(資産買い入れの縮小)開始の可能性を示唆したことが直接的な原因だが、それだけではない。英国ではガソリン価格が急騰し、中国では石炭不足から停電が相次ぐなど、供給サイドの問題が表面化している。米国では民主党内部の混乱とこれに乗じた共和党の戦略から、政府の債務上限停止法案が棚ざらしになっている。このままいくと10月上旬には米政府の機能が部分的に停止する可能性もある。その一方世界中でカーボンニュートラルを推進する動きが本格化している。脱炭素の推進は避けて通れない地球規模の課題だが、この推進は供給サイドを過剰に抑制する可能性もある。世界規模で需給バランスが不気味に崩れ始めている。

きのうの米債券市場の動き。ブルームバーグによると2年債利回りが一時0.32%まで上昇、2020年3月以来の高水準に達した。30年債利回りは前日比11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して2.1%をつけた。FOMC後の上昇幅はこれで約30bpとなった。英10年債利回りも1%を上回り、20年3月以来の高水準となっている。国債の利回りがにわかに上昇傾向を強めている。物価上昇を意識して金融の量的緩和政策が見直し過程に入ったことをマーケットは敏感に感じ取っている。これまで「物価上昇は一時的現象」と高をくくっていたFRBのパウエル議長も、ここにきて物価上昇の流れを受け入れざるを得なくなっている。米国だけではない。英国ではガソリン価格が急騰している。原因はタンクローリーの運転手不足。急激な景気の回復にガソリン供給が追いつかないのだ。

ジョンソン首相は軍隊に支援を要請。大型のタンクローリーの運転手を確保して事態の収拾を図ろうとしている。中国では習近平主席の脱炭素戦略の発表以来石炭の生産量が減少。半面、電力の需要は景気回復で急増している。中国では火力発電が依然として主流を占めているが、豪州からの石炭輸入を停止したことも手伝って石炭不足が深刻化している。世界の供給基地ともいうべき中国での石炭不足(=電力不足)は即物価に跳ね返る。脱炭素化の推進が物価を押し上げるという“不都合な真実”に直面しているのだ。金融市場も荒れ気味だ。NYダウはきのう570ドル急落した。株価の急落はよくあることで特別心配することはないと思うが、急落の原因が国債利回りの上昇にあるという点は気になる。日本でも今月末でコロナ規制が全面的に解除される。すでに野菜をはじめ食料品価格は大幅に値上がりしている。世界中で巻き起こりそうなポストコロナの供給制約、少し気になる動きだ。