巨大経済圏構想「一帯一路」の版図を拡大している中国が、要衝となるアフガニスタンに触手を伸ばしている。同国で復権したイスラム主義組織タリバンも中国との関係強化に前向きだが、専門家は欧米から孤立したタリバンが中国の「支援漬け」となることに警鐘を鳴らす。
「秩序回復への必要な一歩だ」。中国外務省報道官は9月、タリバンが発表した暫定政権をいち早く評価した。中国は、タリバンによる首都カブール制圧前の7月下旬に幹部同士の対面会談を行ったほか、首都陥落後も電話会談などを重ねて独自の関係を構築。食料や新型コロナウイルスワクチンの支援拡大も表明した。
中国が国際社会と足並みをそろえる形でタリバン政権の承認について明言を避けつつ、友好姿勢を見せるのは、アフガンが「一帯一路」の重要地域だからだ。中国とパキスタンを結ぶ「中パ経済回廊」計画にアフガンが加われば、中東に抜けるルートが開ける。
一方で中国は、アフガンが不安定化し、隣接する新疆ウイグル自治区に過激派が流入する事態を極度に警戒している。経済支援を通じてタリバンへの影響力を強め、過激派の抑止を徹底させる狙いもあるとみられる。
タリバンにとっても、女性の人権などで批判を展開する欧米諸国と異なり、政権承認に含みを残す中国は貴重な存在だ。1996~2001年の旧タリバン政権を承認したのはパキスタンなど3カ国のみ。タリバンは今回幅広い国際承認を目指し、「一帯一路」参画への希望も表明している。
ただ、両者の思惑が一致するかは不透明だ。明治大商学部の水谷尚子准教授(中国近現代史)は「中国は地下資源のあるアフガンを開発漬けにして経済的に支配し、地域で影響力を持つことを狙っている」とみる。タリバン側も多額の融資を返済できなくなる「債務のわな」を警戒し、国際的な援助団体などにも広く支援を求めている。
水谷氏はまた、01年の米同時テロ後の米軍侵攻で、アフガンに潜伏していたウイグル族はほぼ一掃されたと指摘。テロ対策を訴える中国の主張は「ウイグル族弾圧を強化するための詭弁(きべん)」だとして、中国とタリバンの結び付きが新たな人権侵害につながる可能性を強調した。