【ニューデリー時事】パキスタン国営放送は10日、パキスタンで「核開発の父」と呼ばれたアブドルカディル・カーン博士が同日死去したと報じた。85歳だった。カーン氏は、パキスタンの核兵器開発をけん引し、1998年にイスラム圏初の核兵器保有を実現させた。さらに、関係技術を北朝鮮やイラン、リビアなどに提供する核拡散ネットワーク「核の闇市場」を構築し、現在も世界を揺るがしている北朝鮮やイランの核問題の元凶となった。
パキスタン国営放送によると、カーン氏は首都イスラマバードの病院で死去した。肺を患っていたという。8月に新型コロナウイルス感染が判明して入院したが、一度は退院していた。
36年、現在のインド中部ボパール生まれ。47年にパキスタン移住、ドイツ留学などを経て70年代、オランダの核関連企業に勤務。ウラン濃縮技術の持ち出しに成功したとされる。帰国後はパキスタンの核開発の中心人物となった。
98年、パキスタンの「宿敵」インドのバジパイ政権が24年ぶりとなる核実験を成功させると、カーン氏の指導の下、パキスタンもすかさず初の核実験を成功させてみせた。南アジアで対立を続ける印パ両国が一気に核保有国としてにらみ合う緊張状態を生み出したが、パキスタンでは「救国の英雄」と見なされ崇拝の対象となった。
しかし、国際的な関心を集めたことは「核の闇市場」への世界の注目を喚起する結果にもなった。追い詰められたカーン氏は2004年、国営テレビで、北朝鮮、イラン、リビアへの国際的な核拡散に手を染めたことを告白した。ただ、パキスタン政府の関与は必死に否定した。