静岡県熱海市で7月に発生した土石流災害で、崩落の起点付近にあった盛り土について、市は18日、2011年に県と協議し、造成業者に安全対策を求める命令を決定しながら、見送っていたことを明らかにした。業者が崩落を防ぐ工事を始めたことなどが見送りの理由だったが、10年前の時点で行政が危険性を認識しており、斉藤栄市長は「業者と行政の両方の責任を含む、人災としての側面を否定できない」としている。
市と県は同日、盛り土の造成過程に関する行政文書などを公表し、それぞれ記者会見した。文書は県分だけで4293ページに上る。
盛り土は神奈川県の不動産会社が07年3月、市に計画書を提出して造成を始めた。遅くとも11年1月には計画を大幅に超える量となり、崩落直前には、高さが基準の3倍超にあたる約50メートル、総量が7万立方メートル超に及んでいたと推定されている。土石流は大半が盛り土で、被害を甚大化したとされ、26人が死亡、1人が行方不明となっている。
公表された文書によると、市は10年10月、盛り土が崩壊すれば「住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性がある」として、土砂搬入の中止を要請。11年3月には県と協議し、県土採取等規制条例に基づく命令を出すことで一致した。この時期から盛り土周辺では複数回の土砂崩落があり、県も危険性を認識していた。
しかし、斉藤市長によると、〈1〉業者は不十分ながら防災工事を行った〈2〉土地を譲渡された現所有者も追加防災工事を行うと説明した――ことなどから、命令は見送られた。
周辺の土地は11年2月に現在の所有者に売却され、その後は土砂の大量搬入がなくなった。県と市の協議も減少し、県は不法投棄の監視などに重点を置くようになっていったという。
斉藤市長は会見で「市の対応に問題がなかったか 真摯 に向き合うことが必要だ」とも述べた。難波喬司副知事は「盛り土が残っていたことについて、行政の責任はある」とし、当時の担当者らの聴取を進め、手続きの妥当性を検証する方針を明らかにした。